第3話 私の過去①
「化け物……か」
私はしゅうが帰った後の部屋であの日のことを思い返していた。
私が、しゅうと出会った日……私がしゅうの母を殺した日のことを。
あの日はたしかとても暑い夏の日だった気がする。
「ねぇ美奈子、グルネアに襲われた女の子を救ったんだって? 病院内ですごい噂になってるよ」
その日私は同じ病院で働くゆりと話をしながら歩いていた。
「別に救ったっていったってそんなにすごいわけではないから」
「うそうそ、美奈子はいつもすごいことをしてもそんなことないで済ませるんだから」
そんな話をしていると私たちは信号にひかかってしまった。
「ねぇ美奈子、なんか今日軍の人たちが異様に多い気がしない?」
その交差点にはいつもよりはるかに多い軍の車などが行き交っていた。
「そうね……何か事件とかあったのかも、もしかしたらなにかニュースになってるかも」
私はスマホを取り出してニュースの欄に目を向けた。
そこには……
「ゆり、なんかグルネアになりそうな野生動物がここの箱庭に入り込んだんだって」
「うわぁ、それは怖いね。前に野生動物がグルネアになるところを動画で見たんだんだけどなんというかガバってなるからね」
私はその時は何事もなく軍の人たちが駆除してくれると思っていた。
そんな時に私たちは出会った。一人の妊婦さんに……野良犬を撫でている女性に。
「ゆり‼︎ あれ‼︎」
「なに? ……早く軍の人たちに伝えないと‼︎」
ゆりはすぐさまスマホを出し電話を始めた。
この箱庭には野良犬なんていない……私はその野良犬がさっきニュースにもなっていた野生動物だと思った。
私は彼女に大声で叫んだ。
「そこの妊婦さん、その野良犬から離れてください‼︎ もしかするとその野良犬はグルネアになるかもしれません‼︎」
だが……私は叫んだことを後悔することになった。
彼女は私が突然叫んだことで驚いて野良犬を撫でている手を急に引いてしまった。
それに驚いた野良犬は彼女に噛みつき……そして、そのことが進化への引き金になったのだろうか野良犬は彼女の手に噛みつきながら……グルネアになった。
「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
彼女は突然の出来事に叫んだ。そしてグルネアは彼女が叫んだことによりどこかへ逃げていった。
私はすぐさま彼女の元へ駆けつけた。
「大丈夫ですか⁉︎ すみませんちょっと痛いかもしれませんが」
私は肩にかけているカバンから注射器と検査液を取り出した。この検査液はウイルスに感染しているかどうかを血液を使って検査する液体だ。
私は彼女から血液を取り、検査液の中に入れて結果を待った。
「お願い……赤のままでいて」
感染していなければ検査液は血液と同じように赤くなる、だがもしも感染していれば……検査液は青くなる。私は祈った、私のせいで彼女は傷ついてしまった。
だが……
「青……色」
検査液は血液を入れると青く染まった。
感染していても抑制剤を使えば、感染を止めることはできる……だが、彼女に抑制剤を使ったとしても……今もなお右手から流れ出している血液のせいで死んでしまう。
私は大変なことをしてしまった、あの時大声を出さずに近づいていたら……私がもう少し頭を使っていたら。そんな後悔が私の中を駆け巡っていた。
だが、すぐさま現実に引き戻された。
「……私は……どうなるの?」
横になっている彼女が私に話しかけてきたのだ。
「……ごめんなさい、本当にごめんなさい、私のせいで……本当にごめんなさい」
その言葉から彼女は察したのだろうか。
「そう……私は死ぬのね」
「うぅ……本当に……ごめんなさい」
私は謝ることしかできなかった。
「ねぇ、あなた……赤ちゃんを私の中から出してくれない?」
彼女はそんなことを言ってきた。
確かに私も赤ちゃんを助けることは考えていた……だが私はそのことすら諦めていた。
「……でも」
「お願い……私とあの人との赤ちゃんなの……あの人はついこの前グルネアに殺されたわ……だから……ね、お願い」
私はその言葉を聞いて決心をした。
赤ちゃんを取り出そう。
私はすぐさまゆりを呼び出し、手伝ってもらうことにした。
「事情はわかったけど美奈子、赤ちゃんを取り出すってどうやって」
「お腹を開けて……取り出す」
「でも麻酔もないのにそんなことをしたら、彼女がショック死する」
「……私は大丈夫よ……痛みとか感じないから」
彼女はすでに痛みを感じなくなっていた。彼女はすでにグルネアになり始めていた。
「……わかったわ、美奈子メスある?」
「ええ、あるわ」
私は赤ちゃんを取り出すのをゆりに任せることにした。
こうして、私たちは妊婦から赤ちゃんを取り出すという挑戦をした。
「おぎゃああぁぁぁ」
私たちは、妊婦から赤ちゃんを取り出すことに成功した。
ゆりは取り出した赤ちゃんを抱きかかえて病院に走った。
「……生きてた……本当に良かった」
彼女のお腹にあった傷は……すでに閉じかけていた。傷がすぐに治る……つまり……もうすぐグルネアになるという前兆だった。
「本当に……ごめんなさい、私のせいで」
私は……私の心は穴が空いていた。私のせいで彼女は……もしも私がいなければ彼女は幸せに過ごしていたのかもしれない。
そんな様子を見て彼女は私に話しかけてきた。
「ねぇ……あなた、名前は?」
「私は……
「そう……美奈子さん、美奈子さんは今何を考えているの?」
「私は……あなたにどう償えばいいか…………うぅ」
「泣かないで……美奈子さん、一つだけお願いがあるから聞いてくれる?」
「はい……」
「私の赤ちゃんに……
そう言い、彼女は笑った……
「はい……わかりました」
「それとね……赤ちゃん、あなたに育てて欲しいの」
「え……」
「……拒否権はないわよ」
彼女は笑った……泣きながら笑った。
「わかりました、大切に、大切に育てます」
「うん、うん、よろしくね……ねぇ美奈子さんちょっと目をつむってもらえる?」
そう言われ、私は言われた通り目をつむった。
そして……再び目を開けるとそこには……心臓にメスが刺さった彼女の体が横たわっていた。
箱庭〜箱の外にあるものそれは死〜 シマの紙 @shimanokami
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