第2話 始まり
「ああー……疲れた」
俺は高校の入学式が終わり、自宅のソファで横になっていた。
「疲れたってしゅうくん、今日は入学式とオリエンテーションだけだったよね?」
そして、ソファの向かい、テーブルを挟んだ所には、俺の幼馴染でもあるめぐが座っていた。
「それでも俺は疲れたんだよ、というかオリエンテーションだって知ってることばっかだったしな」
入学式はまだしも、オリエンテーションなんて中学の時には既に知ってることを教えられた。
「まぁ、昔からしゅうくんは物知りだったもんね。私もオリエンテーションは知ってることばっかだったな」
「あ、そうだ、俺はお前に文句が言いたかったんだった」
俺はめぐに文句が言いたかったのを思い出した。
「え? 文句ってどうして?」
「お前、昨日俺に電話してきたよな? 高校でやっていけるかなって言ってきたよな?」
「うん、そうだけど……」
めぐは素直に言ってくる……こいつ……
あれ? というか今日って病院に行く日だっけか……
「はぁ……なんでもない、そういえば今日俺病院だった」
「そうなの? だったら私帰るね、それと美奈子さんに挨拶しといてね」
美奈子さんとは病院に勤めている俺の……育ての親のような人だ。
「ああ、すまんな」
俺は病院へ行くのに制服はないなと思い着替えることにした。
着替えが終わると俺は家の外へ出た、すると家の前にある道路の向かいに白いワンピースを着た少女が歩いていた。
俺と同年齢かそれとも一つしたかな、なんて考えているとその少女と目があった。
するとその少女はなぜかこちらに歩いてきた。
「ねえねえ君、君はなにを怖がっているの?」
少女は俺にそんなことを聞いてきた。
「君って……俺にはしゅうっていう名前があるんだが?」
「私は君の名前を聞いたわけではないんだけど……で、なにを怖がっているの?」
「俺はべつになにも怖がってないぞ? というかどこを見れば俺が怖がってるなんて思うんだ?」
「そっか……君はまだ自分がなにを怖がってるか理解していないんだね」
こいつ……さっきから意味わからないこと言ってくるな、俺が怖がってる? 意味がわからない。
俺はイライラしてきてさっさとこいつから離れようとしたがこいつはなお俺に話しかけてくる。
「君に一つアドバイスをあげるよ、何かに怯えたり、怖がったりしてたら誰も助けることはできないよ? 家族も友人も……大切な人も、ね」
「そんなことお前に言われる筋合いはない」
「まぁ、それもそうだよね、でも私が言ったこと忘れないほうがいいかもしれないよ……それじゃあね」
こうしてうるさい少女は俺の前から立ち去った。
なんだあいつは? 初対面の相手に言われるような内容じゃないよな?
俺はイライラしながら病院へと向かった。
病院に着くと俺は受付に行き、顔見知りの女性に話しかけた。
「ゆりさん、美奈子さんはどこにいるかわかりますか?」
ゆりさんとは俺が小さい時からお世話になってる人だ。
「あ、しゅうくん、美奈子ならいつものところで引きこもってるんじゃない?」
「そうですか、じゃあそこに行ってみます」
俺がその場を離れようとするとゆりさんが声をかけてきた。
「あ、そうそうしゅうくん話があるんだけど、しゅうくんって高校生だっけ?」
「そうですね、今日高校生になりました」
「そう、物は相談なんだけど」
そう言うとゆりさんはにっこりと笑った……これは何かあるな。ゆりさんがにっこり笑う時は大抵何かがある時なのだ。
「私の娘も今高校生なんだよね……しゅうくん私の娘と付き合う気はない?」
ゆりさんは突然そんなことを俺に話してきた。
そういえば、ゆりさんの娘さんって確か1歳年上だったよな……
「急になんですか? 付き合う気って……ゆりさんは俺の……秘密を知ってますよね?」
「あー、そのことについては十分知ってるわ、あの時美奈子と一緒にしゅうくんを助けたからね」
そう……ゆりさんは俺の命の恩人でもある。
「ですよね? それだったらどうして俺なんかと……」
「そんなこと気にしなくてもいいわよ、もしかしてすでに彼女がいたかしら?」
「いえ、まだいませんけど」
「だったら……いたっ‼︎」
その時、ゆりさんの背後から美奈子さんが現れ、ゆりさんの頭を叩いた。
「私のしゅうをいじめないでくれない?」
んー、俺は美奈子さんのものではないけど……助けてくれたし何も言わないでおこう。
「美奈子……どうしたのよ、いつもなら引きこもってるのに」
「別に……ただしゅうを迎えに来ただけ、しゅう、検査をするからおいで」
そういうと美奈子さんは手招きして一番奥の部屋に入っていった。
「じゃあ、検査をするから横になって……そういえば高校入学おめでとう」
美奈子さん、俺が高校に入ったの知ってたんだ、もしかしてめぐが教えたのかな?
「ありがとうございます」
「入学式に行けなくてすまなかったな」
「いえ、美奈子さんも忙しかったんでしょ? 全然大丈夫ですよ」
「そうか……ところでさっきゆりと何か話してたようだが何を話してたんだ?」
美奈子さん内容を聞いてなかったんだ……てっきり聞いてると思ってたのに。
「えっと……うちの娘と付き合う気はないかって言われてました」
「……もしかして止めないほうがよかったか?」
真剣な顔で言われた。
「止めてくれて助かりました、というか美奈子さんも俺の……あのことについては知ってますよね」
「ああ、しゅうより詳しく知ってるよ」
「ですよね? だったらどうして止めないほうがよかったかとかそんなことを聞くんですか?」
「別にあのことは恋愛には関係ないだろう?」
「関係ありますよ‼︎」
俺は、つい声を荒げてしまった。
「怒るな怒るな、ちゃんと検査ができなくなる」
「……すみません」
「しゅう……高校生になったから聞くが、しゅうは私のことを恨んでいるかい?」
美奈子さんは突然俺にそんなことを聞いてきた。
「恨むわけないですよ、美奈子さんとゆりさんは俺の命の恩人です」
「確かに私とゆりはしゅうを助けた……だが……しゅうは」
「そんなこと気にしないでください……さっきは声を荒げましたけど実際はそこまで気にしてないですから」
「そうか……前から聞きたかったが……しゅう、しゅうは自分自身のことを何者だと思ってる?」
その質問はいつか聞かれると思っていた……だが答えは既に決まっている。
「俺は……化け物ですよ、人間の中にグルネアが入ってる化け物」
俺の目はあの時のように赤く輝いていた。
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