憎しみの果て
夏雨裕也
プロローグ
――ピンポーン――
朝の十時、世間ではブランチタイムだ。
沙世は髪を掻き上げながら、玄関に近寄った。
ドアスコープを覗くと五十センチ大のダンボール箱を抱えた、宅配便のドライバーの姿が映った。
慌ててドアチェーンを外し、ドアを開ける。
二十代後半かと思われる青年は爽やかな笑顔と共に
「貴嶋沙世さんですか?お届け物です。こちらにサインを…」
と、荷物と共にボールペンを寄越してきた。
「はい」
何食わぬ顔で、手慣れた手つきで、さらさらとボールペンを走らせる。
「ご苦労様です」
そう言いながら、伝票とボールペンを青年に渡す。
「ありがとうございました」
また、ニコリと爽やかに微笑み、青年はいそいそと走ってマンションの廊下を走って行った。
――誰かしら。まぁ、大体予想はつくけどね――
送り主を確認すると、沙世はうんざりしたような表情を露骨に浮かべる。きっと今頃、妹の美穂の所にも同じような箱が届いているはずだ。
開封もせずに、玄関のすみっこにダンボールを置くと、早々にリビングに引っ込む沙世であった。
二
――また届いたよ。きっとお姉ちゃんの所にも届いたろうなぁ。――
美穂もまた、中身を知っている様な顔をしている。
沙世と同じ様に開封もせず、コードレスフォンを手に取ると、押し慣れた番号をプッシュした。
――プルルルル――
待ち構えた様にワンコールで繋がると、相手が出様に話始めた。
「ちょっと、お姉ちゃんにも届いた?もぅ!何なのよあの人は!私らのストーカーなんじゃないの?」
「まぁまぁ、落ち着きなさいよ美穂。ここで怒ったってどうしようもないでしょう?」
どうやら相手は先程の姉の沙世の様だ。
感情的に喋りまくる美穂に反して、沙世は冷静に美穂を窘める。
「いい?感情的になるのもわかるけど、今関係を拗らせたら、父さんに申し訳ないでしょう」
「でも……」
返す言葉が見つからず、黙る美穂。
「揃える材料費も送料も全部あちら持ちなんだからいいじゃない。今のまま言っても、あちらの好意と言う事で終わらせられるのは目に見えているわ」
「それはそうだけど…」
「いいわね。開封しないで捨てなさい。どうせロクな物じゃないんだから」
「わかった。でもそろそろ限界。取りあえず、今回『も』黙っているわ」
そう言うと、お互い別れの言葉もなく電話を切った。
三
沙世はバスタブに湯を張ると、ザブンと音を立てて風呂に沈んだ。
沙世は透き通る様に真っ白な手を組み、腕を真っ直ぐに伸ばすと大きな伸びをした。
ここの所、仕事をひっつめに詰め込んだので、久しぶりのオフになったのだ。
いつも以上に爽やかな朝だったのに、今朝の届け物で一気に気分は落ち込んだ。
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