第13話 異星5

 今日も何時ものように、みんなと一緒に朝から草原を散歩して、昼頃に偶然たどり着いた廃墟を休憩所にしてみんなで昼食を取っているところだった。

 途中の道すがら摘んだ果物や花が廃墟に残されたテーブルいっぱいに並べられていた。

 僕が何も食べない事を知っている、この人々は。かわりになのか、僕に次々に花を差し出し、その匂いを嗅がせてくれた。

 甘い香り、爽やかな香り、スパイシーな香り、艶やかな香り。草原でつまれた様々な花が僕の前に並べられ、僕はその香りを一つずつ嗅いでは幸せな笑みを浮かべた。

 どれもこれもが香しく、美しかった。どれもが僕を魅了した。

 しかし、一番好きなのは、やはりレアの持って来るアザレアのような花であった。今日も、彼女は、その花の茎を、優しく握り、その手をそのまま僕の口元へと近づけてくれた。

 花の芳香に混じって彼女の、花とは違う甘い香りがした。

 それが、僕の口に近寄ってきた。

 僕はドキドキとした。

 唇が彼女の手のひらに触れるか触れないくらいだった。

 僕は彼女の手に危うく口づけをしそうな、そんな瞬間……。

 彼女は手を離し、にっこりと笑う。

 幸せな瞬間だった。このまま、宇宙が終わっても良いと思う程の。瞬間が、永遠に勝る時があるとするならばこの時であろうと思える程の。

 そんな、溢れる幸せ、陽光に照らされて輝く大理石のハレーションの中で、過剰露出した写真の中の風景のような、光りと、喜びに溢れたこの場所。

 昼。食べ終わった後、そのまま付近を僕らはこの辺を散策するのだが、僕が最後に、廃墟から出ようとした時に、足元に何かが落ちているのに気付いた。

 それはペンであった。キャップのあいた万年筆の、もうインクが乾ききって何も書けないだろうけど、そのエボナイトの葉に見える軸を握り、——何か書くものは?

 ペンの直ぐ横に、濡れて乾くを何度も繰り返したのだろう、縮み、くしゃくしゃになった、しかし、原型をまだ留めたノートがあった。

 僕はそのノートを拾い、広げると、何と言う気持ちも無くペン先をその上に置き。——電撃が身体を貫いた。

 僕は何か、とてつもない一瞬を体験したのだと気付いた。

 僕は重なり合った。

 心と、身体が、何か他の者、でありながら、自分である、そんな、物語が、そこにあるような気がした。

 紙に書いてある文字はもちろん読めなかったが、僕はそれは現実の平板を越え、空に、天に向かう思いが書かれたものであると感じられた。

 理屈でなく僕は感じたのは……。

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