第8話 宇宙船3
僕のまわりは、砂ぼこりの舞う荒涼とした大地であった。僕は、今、あの惑星の探検の時の記録した立体映像を部屋いっぱいに映したその中にいた。
映像の真ん中に立てば、まさしく、あの惑星に今もいるような感じであった。
あの惑星に降り立ったときの気持ちまでもが蘇るようであった。
僕は、あの時、呆然としてそこに立っていた。
荒れ果てた地平だった。
見渡す限りに砂地だけが広がっていた。
——ここには、生物らしきものは何もいないようだった。
とは言え、かつてはいたはずであった。少なくとも、人類が受信した通信を発出した数百年前までは。ここには何らかの知的生物がいたはずだ。かつては、ここには、地球人に勝るとも劣らない文明があったはずだった。
その証拠に、その荒涼とした様子に落胆せずに探検を続け移動すれば、大地には時々、かつての大文明を思わせる壮大な建物の廃墟が現れる。
それらは、人類からすると奇想天外でエキゾチックなフォルムであったが、まぎれも無く大きな知性と、夢をもった生物の造った物なのだと思えた。
それには首尾一貫した論理と、美があった。それこそが知性であると、この星の住人は、人類の隣人であったと
その中に入った僕は彼らの文明の痕跡を見る。
謎の文字の書かれた書物らしきもの。なんらかの電子部品と思われる基盤、食器に使われていたのではないかと思われるセラミックの欠片。
……等々。
この星にいた知的生物の姿格好はよっぽど地球人とは違うのか、連中の持ち物だったと思われる物は、地球人では考えつかないような妙なデザインの物が多かったが、表面の違和感を無視をして、それらの物を作り上げている構造に注視するのなら、その文明の基盤は我々人類とかなり似通った成り立ちを持つものなのではと思わせられた。
地球を離れて、はるか遠く。それは、何となく、懐かしささえ感じさせた。それは、奇妙な、哀愁のような感情だった。
僕はその時感じた、そんなほろ苦いような感情を思い出しながら、映像の中の僕を見る。
僕は、床に転がっていたペンのような物を拾ったところだった。僕は、そのペンを書き物をするときのように握り直すと、机らしきものの上に置いてあったこの星の植物の繊維を漉いた紙と思われるものの上に乗せてみる。
もしこれが本当にペンであって、この紙のようなものに文字を書くための道具であったとしても、もうとっくにインクは乾き、押し付けた先は紙に浅い窪みをつくるだけであった。
なのでこのペンのようなものの使用法ははっきりとはしない。僕は、これはペンだと、この惑星の生物がそんな風に書き物をした生物だと、思ったが、しかし実際の所は違うのかもしれない。
しかし、僕はその瞬間に悟ったのだった。いや信じたかったのだ。これは僕らの星と同じように原始から空へ向かう物語を紡いでいた生物の残した物であると。
そう思った。理屈ではなかった、自分にはそうとしか思えなかった。
そこに、降り立ったもの、その場にいた物にしか分からない感覚であるかもしれない。
なので理屈でなく僕はそう思ったのだった。
ここにいたのは、多分、人類とは似ても似つかない形状のエイリアンだ。(廃墟に残された遺物よりコンピュータが推測したそのすがたはほ乳類よりは鳥類に似たものであった)
それでも——。
それでも、僕にはその生物に大きなシンパシーを感じた。
その夢を継ぐ必要を感じ……。
僕はため息をついた。
僕は、映像を消し、何も無い白い壁だけになった部屋の中にいた。
もうぶっ続けで二十時間は作業を行った。一刻も早く、この記録を完成させてしまいたい。僕は、そんな気落ちで満載なため、休む気持ちが全く起きないのだった。
このまま、地球に着くまで、ずっと記録の解析を続けて行っても良いと思える程であった。
しかし、連続した作業には限界があった。
映像を消した瞬間、ふらつく足元に僕はそれを自覚した。これ以上の継続はかえって効率を低下させる、うっかりと記録ミスも誘発しかねない。
僕はそう判断し、作業を終え、映像を消したのだった。
ふらつく足元に、バランスを崩し、尻餅をつきかけて。思わず片膝になって、手をついてしまった。
ああ、やはり無理のし過ぎはいけないのだろう。気付くと身体も心もとても疲れていたのに気付く。
このままここの床にででも寝てしまいたいくらいの。
しかし、床で寝て疲れが取れないよりも、ほんのちょっと歩いてベットのある部屋まで行った方が良い。そのあたり前の事に反抗する身体を僕は気合いを入れて、無理矢理たちあがらせると、その勢いでそのままドアに向かい、
——開け。
その瞬間。
脇に強い痛みを感じた。
僕は、そのままそこで倒れるのだった。
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