宅配便の配達員には、心を開かない

下はパンツ姿のままyoutubeやニコニコ動画を巡回していると、GUNZEの綿100%のTシャツ(父親が遺した未使用品)に袖を通したタイミングでインターフォンが鳴る。あわててカーペットに転がっていたジーンズに足を通して大きい声で「はぁーい」と叫んで階段を下る。


この時間に来るのはだいたいヤマト宅急便。数日前にYahoo! オークションで落札した「岳」全巻セットを届けにきたのかな?


わくわくしてドアを開けるといつも通り、深く帽子をかぶった40代くらいと思われる、ハキハキと喋る女性配送員が立っていた。


「今日はお母様にお荷物です。」


彼女はいつもこうやって、お母様だとか僕の名前を必ず言ってくる。この家に住んでいるのは年老いた母親とお前だということを知っているぞ、とでも言わんばかりに。


だから僕はささやかな反抗の気持ちとして、なるべく目を合わさず表情を変えずロボットのようにハンコを押し、さっさとドアを閉じる。


届けられた荷物はというと、母親の注文したキューピーのヒアルロン酸&グルコサミンサプリメント。これを飲むと関節の痛みが和らぐんだってさ。本当かなぁ? まぁ、本人が効くと言っているのだから、それでいいのだけれど。キューピーのマヨネーズは僕も好きだし。笑。


通販サプリメントを飲みながら働く70才の母親と、パラサイトしている本来ならば働き盛りの年齢の息子を世間をどう思うかはわからない。サプリメントのように、本人たちが納得して、受け入れていればこういう生きかただってあるはずだって思ってる。


いまのお年寄りはたっぷり年金ももらっているし、パート代と合わせると僕なんかが中途半端に働くよりも収入があるわけで、考えようによっては、こういう暮らしって今風なことだと思わない?


なんてことを声高に言ったところで、誰も納得しないのは知っているけれど。笑。


働き盛りの同級生にたまに会うと「お母さんが死んだらどうするんだ」なんてわけ知り顔で説教してくるけど、彼らと僕の人生はきっとどこかで分岐して、もう一生交わることのない違った道を進んでしまってる。そういうとき僕は下卑た笑顔で「そうだよね」なんて話を合わせてあげるのだけれど、心は北極の氷のように凍っていて、彼らの正論は、正直あんまり心には響いていない。笑。

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