第32話 木の椅子、黒いワンピース

 僕は電動ドリルで木の板に穴を開けるのに慣れた。

 姫香さんの作品作りを手伝っていた。

 過去に姫香さんが話していた、大木の洞が椅子になっているという椅子だ。

 姫香さんはそれに美久理さんを座らせて写真を撮ろうと考えていて、僕は一日でも早く椅子が完成するように手伝っていた。

 僕はホームセンターで買ってきた木材の加工をして、椅子や棚の部分を作る。

 仮に失敗してしまってもまた同じ物を買えばいいような、比較的安価な物を任されているのだ。

 姫香さんは主に外装、大木の形となる所に使う木材に集中する。

 平日学校から帰ってくると僕は宿題をそっちのけにして、椅子作りに励んだ。

 大学に行っていない姫香さんは朝から晩までやっている。

 眠くなって作業をやめて自分たちの作っている物を見るのが楽しかった。

 朝見た時よりもぐっと完成品に近付いて、椅子の形になっているのが気持ちいいのだ。

 椅子の部品が全て完成したのは金曜日の夜だった。

 土曜日はきっと早朝から美久理さんが来る。

 僕たちは徹夜してでも完成させようと決意して、日付が変わっても作業を続けた。

 部品が全て完成してからそれを組み立てて椅子を完成させるまでに大した時間はかからなかった。

 出来上がった大木は、中に棚を設けたために思ったよりも太かった。

 そのために部屋がかなり狭くなったように感じられた。

「だいぶ存在感あるなあ」と姫香さんは大木を撫でた。

 完成した椅子に腰掛けてコーヒーを飲んだりしていたら寝るのが随分遅くなってしまい、僕たちは美久理さんに起こされるまで目を覚まさなかった。

 美久理さんが驚く様を見たかった僕は、目を覚ました時にはもう美久理さんが椅子のことを知っていたことにがっかりした。

 それは姫香さんも同じだったみたいだ。

 睡眠時間が短かったのと、得意げに披露することができなかった残念な気持ちとで、僕たちはテンション低く朝ご飯を食べることになった。

 そして美久理さんに色々な服を着せて、その大木の椅子に座った写真を撮る。

 大木に包まれる椅子。

 大木の中には棚があって、個人のスペースの性格がある。

 そのために妖精の家をイメージしたのだけれど、美久理さんは妖精にはならなかった。

 むしろ大木に包まれているのが、少女の憂鬱を思わせる。

 黒いワンピースを着た時の写真がたぶん一番いいだろうということになった。

 その黒いワンピースは、この前三人で出かけて買った服だ。

 それ以外にも新しく水着や下着なども買った。

 姫香さんのポケットマネーと僕の入学祝いで買った衣装だ。

 美久理さんはリラックスしながらも背筋の曲がっていない姿勢で椅子に座って本を読んでいて、大木の中の棚に並べられた本も写っていた。

 入学祝いとしてもらった大金の使い道としてこれが一番いいと僕は思っていたから、そのお金で買った服を着た写真の出来がいいとなれば、たまらなく嬉しい。

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