第30話 教室、美久理の写真
放課後、姫香さんは来てくれた。
誰もいなくなった一年五組の教室で、僕たち三人は落ち合った。
姫香さんは黒いスーツを着ていた。
「はい、これ持って」
姫香さんがレフ板を差し出してくる。
それを受け取る前に僕はサイダーを美久理さんに渡す。
「どうしてスーツなんですか?」
美久理さんは机の上に座って聞いた。
姫香さんは美久理さんにカメラを向ける。
「スーツなら不審者だと思われないかと思って。晴道君、机どかそう」
姫香さんはカメラを置いた。
そして美久理さんの座っている机の周辺にある机を動かす。
僕も手伝って、机を教室の端に寄せる。
「よし、それじゃあレフ板よろしく」
僕は姫香さんの細かい指示を待たず、レフ板であまり太陽光の当たっていない美久理さんの顔に光を当てる。
これまでの経験を基にして光の当て具合を微調整すると、いい感じ、と姫香さんは言った。
教師に見つかりたくない姫香さんは早く帰りそうにしていたから、写真を何枚か撮ると僕たちは引き上げた。
「ありがとうございます。どうしてもあの写真を撮ってほしかったんです」
帰り道で僕は姫香さんに言った。
机の上に座り、サイダーを飲む裸足の美久理さん。
その写真がこの活動の出発点だったということを僕は話す。
「サイダーが似合うってのは、わかる」
姫香さんは、ペットボトルを右手に持っている美久理さんを見ていた。
「写真撮るのって難しいですね。全然上手く撮れないです」
「うん、難しい。私もなかなか上手く撮れない」
すると美久理さんがペットボトルを僕に押し付けて、スマートフォンを持った。
「撮ってみようか」と美久理さんは言いながら一枚写真を撮る。
「美久理ちゃんは撮られる側でしょ」
「でも姫香さんも晴道君も撮られる側かもしれないじゃないですか。ほらピースして、ピース」
美久理さんに言われるまま、僕たちはピースする。
そして撮れた写真が僕たちのスマートフォンに送られてくる。
ただの記念写真という感じの写真だ。
画面半分に僕が写っていて、もう半分に姫香さんが写っていて、二人はピースしている。
僕たちの話していた写真とは全く異なる写真だ。
僕はその写真のファイル名に美久理と入れ、記念として取っておくことにする。
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