第29話 写真魔
日曜日の夕方に美久理さんは帰った。
月曜日、いつもの時間に学校へ行くと、寺山だけでなく三木さんも既にいた。
「ねえ、見てこれ」
挨拶を交わすと三木さんがそう言って、ICレコーダーを掲げた。
「それ、録音機?」
「そう。寺山が持ってきた」
「凄いな。それで授業録音するってこと?」
その通りだ、と腕を組んで座っていた寺山が言った。
三木さんがICレコーダーを操作すると、さっきの僕の声が聞こえてくる。
「へえ」
レコーダーのスピーカーから聞こえる僕の声は、いつも自分の耳に聞こえている声とは違うように聞こえる。
それが変な感じだと言うと、
「そういうもんだろう」と寺山は言った。
「俺も自分の声が変に聞こえたし、そもそもそれが安物だっていうのも原因だろうな」
「へえ」
僕はスマートフォンを出す。
「三木さん、そのままそれ持ってて」
写真を撮ろうとすると三木さんは、スマートフォンのカメラにICレコーダーを示すように人差し指でICレコーダーを指しながら歯を見せて笑顔を作る。
三木さんを撮ったら、数歩引いて寺山も入るようにしてまた撮る。
撮れた写真を確認してみると、やっぱり週末に姫香さんが撮った写真とは全然違う。
「なんで写真撮るの」と三木さんは笑った。
「なんとなく」
僕はもう一度カメラを二人に向ける。
彼らはそれぞれに思い思いの表情や手の形をしてくれるけれど、それで写真がよくなるわけじゃない。
僕は二人に一切指示をしなかった。
撮りたい写真が僕にはない。
写真なんてもう一生撮らなくてもいい。
誰かに撮ってもらった写真が思い出として数枚あればよくて、自分でその写真を増やしたって何にもならない。
その結論が事実であることを確かめるために、僕は仲のいいクラスメイトが入ってくる度にその人の写真を三枚は撮ってみた。
その日、僕は写真魔と呼ばれた。
いい写真どころか、綺麗な写真でさえ一枚もなかった。
週末に撮っていた美久理さんを写した僕の写真も全てつまらなかったから、僕はそれらの写真のデータを消した。
そして僕は姫香さんに、学校まで来て美久理さんの写真を撮ってほしい、とメッセージを送った。
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