第27話 卒業するまで

 三時になり、僕は冷蔵庫からヨーグルトを持ってくる。

 美久理さんはいらないと言って、僕にヨーグルトを二つ食べさせようとしてくる。

「私にも頂戴」と姫香さんが言った。

 押し付けられたヨーグルトを僕と姫香さんとで分けて食べていると、

「姫香さん、私のこと好きに使っていいですから、これから私が卒業するまで、ずっと写真を撮ってもらえませんか。いい写真が撮れるなら、床とか本当に舐めますから」と美久理さんは言い出した。

 それは美久理さんの嘆願だった。

「私、綺麗な写真の部品になりたいです。綺麗じゃなくなるまでは、そういう部品として過ごしたいんです」

 やっぱり美久理さんも魔女を求めているんだな、と僕は静かな気持ちで思った。

 姫香さんが断るであろうことを僕はわかっていて、それで心の内は静かなままだった。

 三年間も美久理さんの写真を撮ることを、姫香さんは望んではいない。

 姫香さんが作りたいのは龍の世界だから。

「約束はできないかなあ。私、気分屋だからさ、他のことに興味行っちゃうかもしれないし」

 望み通りにしてあげられるかもしれないけれど、というニュアンスを込めて姫香さんは言った。

 お願いします、と美久理さんは頭を下げる。

 姫香さんは困った顔をした。

「あ、そうだ、姫香さん」と僕はどうでもいいことを話すように姫香さんに声をかける。

「うん?」

「美久理さんの写真、よさそうなの僕のスマホに送ってください」

「よさそうなのって、どういう意味で?」

 姫香さんはからかうように笑う。

 僕は屈託なく笑い、お任せします、と返す。

「えっちなやつでも、そうじゃないやつでもいいですよ。とにかくいいやつです」

「えっちなのは、流石に私の許可を得てほしいんですけど」と美久理さんが口を挟む。

「そうだね。そうした方がいいよね」

「そうしなくていいのにな」

 話を逸らしていくために、僕は残念そうな振りをした。

「じゃあ、水着の写真ならいいよ」と美久理さんは自分の腕を愛おしそうに撫でた。

「それなら水着の写真をいっぱい撮らなきゃね」

 姫香さんはそう言って立ち上がった。

「もう一度着てもらっていい? それで、私の部屋で撮ってみよう」

 美久理さんはまた水着姿になり、今度は姫香さんの部屋で横たわる。

 床に描かれた川の上に、美久理さんの体が乗る。

「もっと別の水着じゃないと駄目だな」

 一目見て姫香さんは難しい顔をした。

 それでも、一応撮ってみよう、と言って姫香さんは何十枚も写真を撮った。

 描かれた川の上で仰向けになっている美久理さんは、

「今日ここで寝てもいいですか? 三人で」と言った。

 いいよ、と姫香さんは答えて、僕たちは姫香さんの部屋で寝ることになった。

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