第26話 部屋の床、水着姿の美久理

 栗原さんが僕に惚れていると思ってなんかいない。

 だけど見ろ見ろとしつこく言ってくるせいで、そうなのではないかと疑ってしまう。

 あるいは僕が栗原さんの体から目を逸らすのをやめるための言い訳として、僕への恋愛感情というものを僕は必要としていた。

 栗原さんが僕に恋していて、それで見てほしいというのなら、それを言い訳にして見ることができる。

「裸を見られたり、デートしたりしてもいいと思ってるくらいには好きだよ。栗原さんじゃなくて美久理さんって呼ばれたいし。それで、姫香さんがそういう写真を撮りたいから二人で裸になって抱き合えって言ってきたら、そうしてもいいって思うくらいには好きかな。だけど付き合いたいってほどじゃない。美久理って呼ばれるのは嫌」

 付き合うのは嫌だけど、裸で抱き合っている写真を撮られてもいい。

 そのくらいの好きというのは凄く具体的に好きの数値を示されたようでいて、しかし僕にはその数値を読み取ることがさっぱりできないのだった。

「僕も、そういう写真を撮るためなら、美久理さんとそういうことしてもいいと思います」

 本当はそれどころではなく、付き合いたいってほどには好きだ。

 美久理さんは綺麗だから、そう思うのはごく自然なことなのだろうけれども。

 僕は顔を上げて、美久理さんを見た。

 まだ下着を着けている美久理さんがスカートを脱ぎ、そしてブラジャーに手を触れる。

 僕はまた目を逸らしてしまい、結局美久理さんの裸は見なかった。

「グラビアみたいな写真撮ろうか」

 姫香さんはそう提案した。

 そしてビキニを着た美久理さんに胸元を強調させるなど、煽情的なポーズをさせて写真を撮る。

 思い付くポーズを一通り撮った後に、

「床、舐めてよ」と姫香さんは言った。

「はい」

 美久理さんは舌を伸ばして、躊躇なく顔を床に近付けるので姫香さんは慌てた。

「本当に舐めなくていいよ。近付けるだけで」

 美久理さんの舌が止まる。

 そして姫香さんが写真を一枚撮る。

「舌、しまってみようか。今度はキスするみたいな口をしてみて」

 床にキスをしようとしている写真。

 耳を床に付けるようにして横たわり、キスを求めているように口を開けてカメラの方を見ている写真。

 その姿勢から、今度は床に唇が付きそうにしつつ、手は床を撫でる。なるべく官能的に。それを脚まで写るように撮った写真。

 そういった床を相手にした写真をいくつか撮ると姫香さんは、

「水着じゃない方がいいかもしれない」と言って美久理さんにタンクトップとショートパンツを着せた。

 姫香さんの要求するポーズや撮る写真は、水着を着せていた時のものから少しずつ離れていって、官能的ではない写真へと変わっていく。

 だけどそれを全く取り払ってしまうつもりでもなく、男を誘っているみたいに、などという表情の指示をしきりにしてバランスを取ろうとしている。

 さらにパーカーを羽織らされた美久理さんが、自分の右膝を思い切り抱き締めるようにしながら座ってカメラを見ているという写真。

 姫香さんがポーズや表情から出そうとしているもの。

 それは裸足で高校の校舎をうろついている時の美久理さんの美しさを、別の形で写真の中に表現しようとしたものなんだと僕は感じた。

 そういう写真をもっと撮ってほしいと僕は思った。

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