第25話 変な人
二階の真ん中の部屋に戻ると姫香さんは栗原さんのリュックに入っている服を全部出した。
そして一枚広げては、立ってその服を観察する。
姫香さんはビキニが気になったようだ。
黒と白のストライプのビキニであった。
「こういう水着持ってるんだね」
「なんか似合いそうだったんで衝動買いしただけです。結局海行かなかったんで」
恥ずかしそうに栗原さんは言った。
「似合う。絶対似合う」と姫香さんは強く言う。
それじゃあ水着姿の写真を撮ることになるのか、と僕は期待した。
栗原さんも、じゃあ着ます、と言ってビキニを受け取ろうとする。
だけど姫香さんは栗原さんに水着を渡しながら、
「えっちな写真もあった方がいいもんね」と言った。
それが栗原さんに寄り添うような言い方だったから、栗原さんの思い出のためにあった方がいいのか、姫香さんのためにあった方がいいのか、よくわからなかった。
栗原さんが着替えるので僕は部屋から出ていこうとしたが、
「別に出ていかなくていいよ」と栗原さんは言ってきた。
「はい?」
「だってほら、これから何度も着替えるし、その度出ていくなんて面倒でしょ」
「だからっているというのも、なんか変です」
栗原さんは僕の目をじっと見つめたまま説得の言葉を考えた。
言葉を出さずとも、考えている険しい顔が僕に空気を読めと非難しているみたいだった。
「男の人が私の体をどういうふうに見るのか、知りたいの」と栗原さんは言った。
なんとも変なことを言う人だ、と僕は思った。
「変な人ですね」と僕は思ったまま言う。
すると栗原さんは呆れた顔をした。
「今更言う?」
僕は、今更という言葉で気が付いた。
栗原さんは高校生なのに裸足で中学の校舎の中を歩いていたり、やたら裸足になりたがったりしていて、以前から変な人の姿を僕に見せていた。
「そういえばそうですね」と僕は頷いた。
でもそれとこれとは話が別です、などと言おうとしたけれど、
「君も常識人みたいにしなくていいよ。君だって変な人でしょ」と栗原さんが言ってくる。
「そんなことないですよ」
まさか変人と言われるとは思ってもいなくて僕は驚く。
「だって私みたいな人を家に連れ込むんだよ?」
「それは」
真っ当な理屈がすぐには思い付かない。
「いいから着替えちゃいなさい。晴道君も見ちゃいなさい」
姫香さんが話を遮った。
はあい、と栗原さんは言って制服を脱ぎ始める。
ブレザーが床に落ちる重めの音がする。
僕もなんだか部屋を出てはいけないような雰囲気に飲まれて、座り込んでしまう。
栗原さんの体を見てしまわないように、僕はできるだけ俯き、あぐらをかいている自分の股を見る。
「見ないの? 写真撮らないの?」と栗原さんは不満そうに言う。
それは僕に向けられた言葉だったが、僕ではなく姫香さんを動かした。
「そうか撮らないと」と呟いて姫香さんはカメラを持って撮影し始める。
衣擦れの音がしない。
スカートもたぶんまだ履いたままだ。
「栗原さんは僕のこと好きですか?」と僕は聞いた。
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