三 僕たちの日々と写真集と動く家具
第22話 宿泊
栗原さんが訪ねてきたのは、午前七時だった。
僕と姫香さんはまだ寝ていて、祖父が僕たちを起こしに二階に来た。
栗原さんは制服を着て、居間でコーヒーを飲んでいた。
「彼女、今日うち泊まるってさ」と祖父は言った。
「そうなんですか?」
僕はトーストを口に入れるとあまり噛まずに紅茶を飲んで流し込む。
「さっき聞いたら、いいって言ってもらえたから」
「泊まる気満々だよね」
姫香さんは、栗原さんの傍に置いてある茶色のリュックサックをスプーンで指して、そしてそのスプーンで目玉焼きを一口大に切って食べる。
「いや、これはそういうのじゃないです」
栗原さんはリュックサックを開ける。
そして畳んで入れていた服を出して、広げた。
白いスカートだった。
「こういうの写真撮る時使えるかと思って」
「ああ、衣装ね」
「中学の時の制服もありますよ」
リュックいっぱいに服を詰め込んできたと彼女は言う。
「凄いやる気」
そのように祖母に褒められ、栗原さんは笑顔になった。
「いい写真撮るためなら、何でも着るし、脱ぎますよ」と栗原さんは姫香さんに言う。
「それ、本気にしちゃうよ?」
からかうように姫香さんは笑みを浮かべて言った。
「本気にしちゃいなさい。撮りまくっちゃいなさい」と祖母が言う。
僕たちが食べ終わると待っていた栗原さんは早速二階の真ん中の部屋で撮影を始めたがった。
だけど僕は今日の分のおやつなどを買いたかったので、コンビニに行くと告げた。
「すぐ戻ってくるから、準備しててください」
僕は階段を駆け上がって自分の部屋に戻ると、着替えて財布を持ち、コンビニに出かけた。
初め僕はジュースやチョコレートを買おうとしたのだが、きっと栗原さんは太りたくないだろうから、それらはやめた。
お茶ならカロリー低いだろうからウーロン茶。二リットルのものを買った。
そして体にいい食べ物だというイメージのあるヨーグルトを僕は選んだ。
僕はおやつ時に二人が喜んでくれることを期待して、コンビニから走って帰ると買った物を冷蔵庫にしまい、二階の真ん中の部屋に行く。
部屋では栗原さんが裸足になって立っていた。
ブレザーを脱いで、長袖のブラウスの袖をまくっている。
「やっぱり裸足なんですね」
「これは貫き通したい。何着ても、裸でも」と栗原さんは言った。
「裸なら裸足じゃないですか」
僕がそう笑うと、そうとも限らないけどね、と姫香さんがスケッチブックにラフを描きながら言った。
それってどういうことなのだろう、と僕は続きを待つのだが、姫香さんは鉛筆を動かすだけで続きを話す様子はなかった。
「と言うか、裸足に限らず、できるだけ露出したい。スカート短くするとかそういう、可愛い服と肌って存在でいたい」
「美久理ちゃんはそういうの似合うだろうね」
「ですね」と僕は頷いた。
「今日はちゃんとこの足、撮ってもらいますからね」
姫香さんは誤魔化すように、あはは、と笑い、
「頑張るよ」と言った。
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