第21話 魔女未満

 今日はもう帰ると言った栗原さんを、僕は送ることにした。

 栗原さんは、明日も来るという。

 明日は土曜日で、学校は休みだ。

 それで栗原さんは朝からこっちに来るつもりらしい。

「どうでしたか?」

 祖母が弟子を育てるための材料にされてしまい、迷惑だったのではないかと心配して聞く。

「凄くよかった。部活動ってこんな感じなのかなあって思った」

「部活動ですか」

「私、中学の時も何もやってなかったからね。こういうの新鮮」

「部活、何もやってなくてよかったですね」

 こうなったことを僕自身は嬉しく思っていた。

 栗原さんは、本当にね、と僕以上に嬉しそうに言う。

「本当に、部活だったらいいんだけどな」

「どういうことです?」

「部活だったら、卒業するまでできるから。これ、三年間続くわけじゃないんでしょう?」

「写真集できちゃったら、おしまいでしょうね」

「毎日、ずっとあんな感じでモデルやって過ごせたらいいのに」

 僕はあの真ん中の部屋で暮らす栗原さんを想像した。

 昼は姫香さんに写真を撮られ、夜はあの部屋で眠る。

 真ん中の部屋に閉じ込められたように、三年間をあの部屋で過ごす栗原さん。

「まるで魔女に囚われたお姫様みたいに、ですね」と僕は言った。

「なにそれ」

 栗原さんは笑う。

 わかってもらえなかったみたいだけれど、栗原さんも魔女を求めているのだと僕は思った。

 姫香さんは魔女ではない。

 でも姫香さんには魔女になれる素質があるはずだ。

 まだ祖母のような人になれていないだけ。

 魔女未満なのだ。

「もしかしたら、姫香さんの写真の出来がよくなければ撮り直しってこともあるかもしれませんよ」と僕は言った。

「そうなってくれって祈りにくいね、それ」

「可哀想ですもんね、そうなったら」

 姫香さんにとっては、師から一人前と認めてもらうための試練なのだ。

 部活動とは全く異なるものなのだろう。

 そのことに栗原さんも気付いて、

「じゃあ真剣に、いい写真撮れるように頑張らなくっちゃね」と言う。

「そうですね」

「私、今日からエイジングケアとかしてみるよ」

「まだ十代ですよ」

 僕は笑った。

 それは三十代とか四十代の人が頑張るものだと思った。

 しかし栗原さんは、そんなに冗談のつもりで言ったわけでもなかったみたいで、

「でも撮り終わるまで、せめて肌は綺麗にしておかないと」と言う。

「そうなんでしょうけど」

 だけど綺麗じゃないですか、と僕は言いたい。

 少なくとも二十歳までは、本当に老化が始まってしまうまでは、栗原さんは綺麗だと思うのだ。

 しかし栗原さんはまるで既に老化が始まっているみたいな焦りを見せていた。

 高校一年生ならまだ背だって伸びる。

 背が伸びなくなった時に人は老化し始めるのだと僕は思っていたから、栗原さんは気にしすぎているのだと感じた。

 栗原さんは学校の近くまで来ると、

「私の家、ここら辺だからここでいいよ」と言った。

「また明日」と言って僕は手を振る。

 栗原さんは同じ言葉、同じ動作を返してきた。

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