第19話 真ん中の部屋、写真集
二階の真ん中の部屋、一室だけベランダのないその部屋は、ベランダがない分だけ奥行きがあって広かった。
物は全くと言っていいくらいに置かれていない。
ただ一ヶ所に三脚や照明器具などが集められてあるだけだ。
キャスター付きの背の低いタンスも一つそこに置いてある。
カメラや小さい物はその中にしまっているのだろう。
「ここは晴子さんが作品を撮影する時に使ってる部屋なの。あとたまにここにこもって作品作ったり。そして今日からは栗原さんの写真集を作るための部屋」と姫香さんは言った。
「写真集?」
驚いたように栗原さんは言った。
「晴子さんが私に作れって。二人は聞いてないの?」
僕も栗原さんも、全然、と言って首を振る。
「写真撮ってもらうってだけで、写真集なんて聞いてないです」と僕が言う。
「ああ、別に売ったりするわけじゃないよ」
動揺や緊張を緩めようとして姫香さんは笑顔で手を振って言った。
「私が一人前になるための修行として、そういう形にして完成させなさいってこと。つまり私の試練なんだ。モデルデビューとか期待しちゃってたらごめんね。そういうのたぶんないから」
「ああ、うん、そんな期待はしてないんで」
ごめんね、と姫香さんはもう一度謝る。
そして姫香さんはタンスの一番上の段からカメラを出して、タンスの上に置く。
そしてカメラが入っていた段からレンズを選んで出して、同じように置く。
「そういうわけで、たぶん今日だけじゃなくて結構な間付き合ってもらっちゃうことになっちゃうけど、大丈夫?」と姫香さんは栗原さんに聞いた。
「大丈夫です。むしろ嬉しいです」
そして姫香さんは僕にも協力してほしいと言ってきた。
僕は喜んで引き受けた。
これから撮られていく栗原さんの写真を見ていたい。
誘われなくてもここに居座るつもりでいたくらいだ。
「栗原さんは、どういう写真撮ってほしいとか、ある?」
短めの三脚にカメラをセットした姫香さんはそう聞いた。
「裸足」と栗原さんは答えた。
姫香さんは栗原さんの足元を見て、裸足でいることに気が付いた。
「靴下脱いだんだ?」
「学校でよく上履き隠されるんです。それでよく脱いで裸足で歩いてます」
そう言っている時の栗原さんは悲しそうではなく、やはりどこか得意そうだった。
上履きを隠されてしまうことなんて、自分の足が綺麗なことのアクセントくらいにしか思っていないのかもしれない。
「確かに綺麗な足だね」
直接見て、そしてカメラ越しに見て、姫香さんは言う。
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