第15話 一年五組の教室、裸足の美久理
栗原さんからメッセージが届いたのは、栗原さんと出会った週の金曜日だった。
踊り場で栗原さんと出会ったのは三日前、火曜日だ。
そして僕はたまたまその日と同じサイダーを買ってきていた。
メッセージが来たのは放課後で、僕はもう学校から出ていた。
「また上履き無くなったよん」と栗原さんからのメッセージには書いてあった。
「ちょっと待ってください。なるべく早く行きます」
そう僕はメッセージを返し、スマートフォンを握ったまま走って学校に戻る。
「晴道君は何組なの? 一年だよね?」と来たので、
「一年五組です」と返すと、しばらく間を置いて、
「教室に誰もいないし鍵開いてたから教室の中で待つね」というメッセージが来た。
それで僕はもうスマートフォンを内ポケットにしまって、バッグを脇に抱えるようにして持って、全力で走った。
寺山や三木さん、クラスメイトたちに栗原さんを見つけてほしくないと僕は思った。
彼らが栗山さんのことをどういう目で見るか知れたものじゃないと心配だった。
仮に寺山なんかが栗山さんのことを受け入れて、僕が着いた頃には仲良く話していたとしても、それはそれで嫌だと思うので、僕はできるだけ速く走った。
教室に着いて僕はドアを開ける。
思い切り開けたために、ドアは勢いよくスライドして大きな音が出る。
それでびっくりした栗山さんの体がびくっと跳ねる。
栗山さんは僕の席に座っていた。
「すみません、遅くなって」
息を切らしていて小さな声しか出なかったので、僕は三回くらい繰り返し同じことを言う。
「もしかして帰る途中だった?」
「はい」
「ごめんね。走ってきたんだ?」
呼吸が整うまで待ってもらう。
「どうして僕の席わかったんですか」
「座席表あったから」
教卓を指す。
そういえばあった、と思い出す。
教師は授業中に指名する時に、それを見て名前を確認していた。
上履きが無くなったことを確かめるために、僕は机の下を覗く。
そこに栗原さんの素足はあった。
「やっぱり靴下は脱ぐんですね」
僕がそう言うと栗原さんは笑顔になって、当然でしょ、と言うような感じで大きく頷いた。
「綺麗ですね」
栗原さんを褒めたくて、僕はそう言った。
僕は栗原さんと親しくなれると感じていた。
この素足を見せてもらっているからそう思うのだろう。
「綺麗だよ」と栗原さんは愛想よく微笑む。
そして栗原さんは立ち上がって、その足を誇るようにゆっくり窓際に歩き、その様を僕に見せる。
僕は飲みかけだったサイダーのペットボトルをバッグから出して、一口飲んだ。
「それサイダー?」と栗原さんが聞いてきたので、そうです、と僕は答える。
「私にも飲ませて」
栗原さんは窓際からは動かず、手を伸ばした。
「好きなんですか?」
僕は近付いてペットボトルを渡した。
「そうでもないけど。カメラ持ってない?」
「スマホのカメラなら」
「じゃあそれでいいや」
栗原さんは窓際の最後列の机に座った。
僕はスマートフォンを構える。
「裸足の私とサイダーは、かなりいい写真になる気がする」と彼女は言った。
栗原さんがサイダーを飲むところを僕は撮影する。
窓から入ってくる太陽の光のために、撮った写真の栗原さんには陰が多かった。
それに足の先まで収まるように撮ったせいで、栗原さんが主役の写真なのに、その主役が小さくなってしまっているのだった。
広告ポスターのような綺麗な写真にはならなかったけれど、陰が多いのが裸足やサイダーには丁度いいような感じもあった。
未完成の写真、と僕は思った。
それを栗原さんに見せてみると、栗原さんは、
「結構いいじゃん」と言った。
「そうですか?」
「プロの写真を真似して撮った、素人の写真って感じがする」
的確だと思い、僕は頷いた。
「プロの写真の真似をしてない分、上出来って意味だからね」
フォローをするように栗原さんは言った。
わかってます、と僕は答える。
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