第13話 放課後、一人の目覚め
三木さんが寺山にいつでも席を使っていいと言ったので、寺山は昼休みになると早速三木さんの席に座った。
寺山は二段の大きな弁当箱に、さらにスープジャーを持ってきている。
数学の時間に、寺山が朝披露したような身振りと言葉づかいで木下先生は問題の解説をしていた。
そのことを寺山は、まんまだったろ、と興奮して話す。
「寺山、将来教師になれるよ。先生の真似を完璧にやればいいんだから」と僕は言った。
自画自賛するのもよくわかるくらい木下先生の物真似は似ていて、僕はそれを面白がってそう言ったのだけれど、寺山はいいアイデアだと思ったみたいだった。
「なるほど、それは楽だな」と寺山は言った。
「じゃあ今度授業やってよ」
僕は寺山のことを、眼鏡をかけているからという理由で頭がいいと思っていて、いつか勉強を教えてもらうつもりでそう言った。
すると寺山は、にいっと笑って、
「ホームルームもやってやるよ。いや、始業式からだな」と言った。
そして寺山は、自分の弁当に入っていたナスの照り焼きを箸でつまんで僕に見せながら、
「そういえばナスに含まれてる色素って、ナスニンって名前だって知ってたか?」と言う。
「いや、知らなかった。ナスニン?」
「ああ。しかもなんか、健康にいいらしい。何にいいのかちょっと忘れたけど」
「ふうん」
そこからどういうわけか納豆の話になっていき、昼休みが終わる頃に席に戻ってきた三木さんにまたクッキーを分けてやる。
その後の授業を僕は寝て過ごして、そのせいかもっと寝たいという気分で僕は放課後を迎えた。
目覚め損ねて、まだ眠りの世界に手首から先や髪の毛が取り残されてしまっているみたいだ。
本当に寝てしまおうと思い、掃除が終わった後の教室の自分の席で僕は寝てみる。
けれど十五分くらい眠って目が覚めると、教室の中が静かなのが僕を締め付けるみたいで居心地が悪く、寝ていられなくなる。
立ち上がって鞄を持ち教室を出てみると欠伸が出た。
寝ようと思えばまだ眠れるけれど寝なくたっていい、という感じ。
階段に向かって廊下を歩き、他のクラスの教室の中を覗いてみるが、どこの教室にも人がいない。
いつもなら教室に残って喋っている人たちがいたりする。
赤の他人さえいない心細さで、僕は階段を上がって二年生の教室も見ようかと考えた。
けれど足はいつものように下りることを選んで、こんな気分のまま僕は帰ろうとする。
その階段の踊り場に、高校生の女の人がいた。
中高一貫校と言っても校舎は別で、こちらの校舎に高校生がいるのは珍しかった。
踊り場に立って、誰かを待っているのだろうかとその人を視界の端で見るようにしながら階段をゆっくり下りると、途中でその人が裸足で立っていることに僕は気付いた。
目が合ったので僕は、
「どうかしたんですか」と声をかけた。
すると彼女は嬉しそうに頬を緩めて、
「上履きを隠されちゃったから探してるの」と言った。
彼女はとても可愛かった。
目が可愛くて、そして顔が可愛い。
大きな目が顔の主役で、鼻も口もその目と上手くバランスを取るような形のよさをしているのだ。
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