第8話 昼食の時間

 それから僕は姫香さんと十万円の使い道について話し合っていた。

 姫香さんはあまり真面目に考えようという気が起こらなかったらしくて、とにかくおいしそうなお菓子を食べる、と繰り返し言った。

「やっぱりお菓子だよ。お菓子でなくてもいいんだけど、とにかくおいしい物を食べる飲む。これがいいよ。それか服を買おう」

 もう飽きたという感じで言うようになってきたので僕は姫香さんに考えてもらうのはやめることにした。

「お腹減ったんですか」

 あまりにもお菓子お菓子と言うので僕はそう聞いてみた。

 もう正午を過ぎていて、僕もお腹が減っていた。

「そろそろご飯の時間であるよ。空きまくり」と姫香さんは机に額を乗せて言った。

 誰かが階段を上ってくる音が聞こえてきた。

 噂をすれば、と言って姫香さんは素早く立ち上がる。

 姫香さんは部屋のドアを開け、

「ご飯ですか?」と上がってきた人に聞いた。

「そうだよ」と男が答える。

 祖父の声だ。

「ほら、ご飯だって。行こう」

 姫香さんはドアを開けたままにして部屋を出ていく。

「晴道もいるのかい?」

「いますよ。私の作品見せてたんです」

 僕も部屋から出た。

 祖父が僕を見つけて、おお、と笑う。

 白髪の交ざった髪の毛、額のしわ。

 祖父は見た目からしておじいちゃんという感じがある。

「お昼は蕎麦だよ」

「もしかして、引っ越し蕎麦ってことですか」と姫香さんは言った。

「まあ、そんな感じかな。本当はそういう風習じゃないみたいだけど、まあ、引っ越して来たらお蕎麦にしてみたよ」

 一階に降りる。

 居間の白く塗られた木のテーブルと椅子があって、祖母はもう窓近くの椅子に座っている。

 祖母の向かい、もう一つの窓際の椅子に祖父は座る。

 それで自然と僕と姫香さんが向かい合うように座ることになる。

 姫香さんは祖母の隣に座ったので、僕は祖父の隣に座る。

 テーブルにはもう蕎麦の入ったどんぶりが置いてある。

 他にも天ぷらやサラダが並べられていた。

「それじゃあ食べようか」と祖父は言い、手を合わせる。

 いつも通りのタイミングというのがあるのだろう、僕以外の三人は同時にいただきますと言う。

 遅れた僕は小さな声で早口気味に言った。

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