第7話 龍の世界
「どうして、そんな大きい龍が必要なんですか」と僕は聞いた。
「この世界には本当に龍がいるんだって思い込めるくらい、大きくて迫力のある龍を私は作りたいから、かな。こんな龍が部屋にあって、いつも眺めてたら、なんだか龍がいるのが当たり前に思えてきそうじゃない?」
どうだろう、と僕は首を捻った。
「こいつは、ここにいるって感じはしますけど」
生き物そっくりな彫刻というような出来ではなかった。
だけどその大きさのために、僕はこの龍の生命を感じられている。
この龍の壁は、生きてるっぽい感じがするかも、という出来だった。
「一緒に暮らしてると、生きてるように感じられてくるよ、って言えればいいんだけど、今の私の実力じゃ難しいのかもね」
姫香さんは自分で作った龍の顔を見つめて言った。
「この世界に龍はいないけど、だけどこの世界のどこかの家の一つの部屋の中くらいには、龍を存在させられる。そんなふうに私はなりたいんだ。それで君のおばあちゃんに弟子入りしたの」
「うちのおばあちゃんって、そういうの作ってるんですか」
祖母の作品について全然知らなかった僕がそう言うと、
「え、知らないの」と姫香さんは笑った。
「はい」
「全然だよ、全然。晴子さんが龍を作ったことなんて、ほとんどないよ」
「じゃあ、何を作ってるんですか」
「晴子さんは何でもやる人だよ。絵を描くし、彫刻するし陶芸するし。そういうのを色々組み合わせた作品を作るの。あの龍もその真似というわけ」
壁の龍は絵画と彫刻を組み合わせたものだ。
それと同じように祖母は色々なものを足し算する。
そういう解釈でいいのかと聞いたら、大正解、と姫香さんは大きく頷く。
「龍とか、テーブルになる蜘蛛とか、海と繋がっている柱とか。そういう私が存在してほしいと思ったものを作るために、私は晴子さんみたいな何でもできる人になろうと思ったの。私が存在してほしいと思ったものたちの世界。龍の世界。私はいつか、その龍の世界を作り上げて私自身をそこに連れていってみせる」
それが龍をほとんど作らない祖母に弟子入りした理由らしい。
姫香さんは自作の詩を暗唱してみせるようにどこか格好つけた感じで僕に語った。
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