第6話 動け黒いちゃぶ台

「そうだ、これを見せなきゃいけないんだった」

 姫香さんは何かを思い出して、黒いちゃぶ台の方へ歩いた。

 ちゃぶ台の下に置いてあった、スティックが二本あるコントローラーを取る。

 それから、ちゃぶ台の近くのコンセントからプラグを外す。

「見ててね」

 そう言ってコントローラーのスイッチを押すと、ちゃぶ台の天板に張り付くようにして隠れていたもう四本の脚が出てきた。

 脚が八本になって、蜘蛛を連想させた。

 その蜘蛛を思わせるちゃぶ台は、姫香さんがコントローラーのスティックを傾けると、脚を動かして進み出した。

「動いた」と僕は声を上げた。

「凄いでしょう。ちょっとしたラジコンのロボットになってて、動かせるの」

 ちゃぶ台は僕の方に向かってくる。

 そして僕の傍で停止して、のろのろと四本の脚をしまった。

「こうやって好きな所で食べたり飲んだりできるってわけ。まあ、実際にお皿とか乗せて動かすと、動く時の揺れで落ちちゃったりするんだけど」

「でも面白いです。僕、この部屋にある物、好きです」

 僕はその場に座って、ちゃぶ台に腕を乗せて言った。

「ありがとう」

 姫香さんは笑顔で僕を見たまま歩いてきて、そして僕の向かいに座る。

「でもこの部屋で暮らすのは、落ち着けなさそうです」

 僕は龍を見ながら言った。

「かもね。私は慣れちゃったけど。まだ増やす予定だし。そうしたら意外と落ち着けるようになるかもよ」

 それはどうだろう、と僕は思った。

 もっとごちゃごちゃとした部屋になるだけのような気がする。

「ああ、でもここに布団敷いて寝る時なんか、布団だけ普通なせいでこの部屋に全然合ってなくて、泣きそうになるよ」

「布団は普通なんですか」

「うん。そこの押し入れの中に入ってる。その中の物は全部普通」

 つまらないといった感じで姫香さんは言った。

「じゃあその中の物もどんどんこんな感じにしていくつもりなんですね」

「そう。大学を卒業するまでに、この部屋を完成させるつもりなんだ」

「あの龍も動くようになりますか?」

 それは無理、と姫香さんは苦笑した。

「ちゃぶ台は、リモコンで動かせたら便利そうだし、生き物をモチーフにして作りたかったから動いた方が楽しいと思ったから動くように作ったんだよ。龍は、ただ部屋に大きい龍が欲しかったからこうやって作っただけで、他のことは何も考えてなかったんだ」

「部屋にこんな龍が欲しかったんですか?」

 姫香さんの言うことには共感できないくらい、龍は大きい。

 たとえば龍の置物とか、そういった手のひらサイズの龍なら、僕だって部屋に飾るのもいいかもと思うだろう。

 けれど部屋の壁の一つの面を丸々龍が占領してしまっていて、しかもその龍はその長い体の一部を壁から出してさえいるというのは、はっきり言ってうっとうしい。

「こんくらい存在感のある龍が欲しかったんだよ」

 もっと大きくてもいい、という言い方だった。

 その姫香さんの言い方は、強い意志を感じさせた。

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