第4話 姫香の部屋にようこそ

 姫香さんの部屋は、僕の部屋とはだいぶ雰囲気が違っていた。

 まず壁に龍がいた。

 その龍は絵であり彫刻だった。

 絵の中から頭や体の一部を外に出していて、その絵から出てきている部分が木彫なのだ。

 大きな鱗まで丁寧に彫って作られてあり、体は深い緑色で塗られてある。

 壁に埋められた龍、もしくは生命を得て壁の中から今まさに抜け出そうとしている龍。

 そんなふうに見えた。

 フローリングの床には絵が描いてあった。

 物凄く浅い川みたいだ。

 薄っすらと水の色にコーティングされた石畳が描かれている。

 部屋の端っこには、黒いちゃぶ台がある。

 ちゃぶ台は大きな円と小さな円をくっ付けた形をしている。

 小さい円の方は球体で、白い目が描いてあるのがなんだか可愛い。

 そのちゃぶ台の近くに、一本の柱が立っている。

 しかし柱はただの飾りのようで、天井まで届いていない。

 柱の真ん中の辺りに液晶があった。

 その液晶の中で、サメや熱帯魚などが泳いでいる。

「これら、全部私の作品。この部屋全体が、私の作品なんだよ」

「この龍とかも、姫香さんが?」

 姫香さんは頷いた。

 僕はもう一度龍の方を見て、そして床を見て、ちゃぶ台や柱を見た。

「どうだろうか」

 姫香さんは、必ずしも褒められるわけではないと覚悟しているふうに、緊張した声で僕に聞いた。

 僕は凄いと思って感動していたし、そう言ってあげたかったのだが、すぐにそう言ってはいけないような違和感があって、

「感想じゃなくて、聞きたいことがあるんですけど」と僕は言った。

「うん、何?」

「姫香さんは、うちのおばあちゃんからお小遣いもらってますか?」

「うん? まあ、お金はもらってるよ。晴子さんのお仕事のお手伝いをしてるから、そのお給料。でも、どうして?」

「僕、月に三万円もらえることになったんですよ。さっきは入学祝いって言って十万もくれたんです。そういう大金ってこういうことに使うべきなのかなって思って」

 僕は祖母からもらったお金を既に持て余しているのだった。

 たくさんもらえるのは嬉しいが、それをどう使えばいいのか想像できなくて、このままだと溜まる一方になってしまいそうだった。

「晴道君もこういうの作るの好き?」

「いえ、興味ないです。絵とか下手だし」

 祖母は彼女のことを僕に教えなかったのに、僕のことは彼女に伝えていたようだ。

 教えていないのに名前を言われて、そのことがわかった。

「好きじゃないなら、こんなことする必要ないよ」と姫香さんは自嘲するように言った。

「私も、好きになれない物は作れないしね。お金なんて好きに使えばいいんだよ。何万円もする物なんていくらでもあるんだし」

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