第3話 灰色の髪の女、桐嶋姫香
祖母は、足りない物があったら言ってね、と僕に言うと部屋から出ていった。
早速僕は本棚から漫画を一冊取り出して、布団に寝転がる。
その漫画を三十分くらいで読み終えて、次の漫画を取りに行こうと思いながら寝転がったままいて寝そうになっていたら、ドアをノックする音が聞こえた。
祖父か、祖母か。
体を起こして、はい、と答えるとドアが開く。
そこにいたのは祖父でも祖母でもなく、芸能人みたく綺麗な女性だった。
耳が隠れる程度の長さの髪の毛は灰色に染めてあった。
若くて、たぶん二十代だろうと僕は思った。
「こんにちは」と灰色の髪の女は微笑んだ。
「こんにちは」と僕も返した。
僕はまじまじとその女の人を見ていた。
彼女の髪の毛の色に慣れてくると、今度は彼女の着ている黒いTシャツを見て、胸があるなあと思った。
この頃、少しの膨らみでも女性の胸に目を奪われてしまうことがある。
恥ずかしいことに、同じくらいの年齢の女子から二十代の女性の胸が気になってしまう。
僕が何か言うのを待つように女の人はしばらく黙っていたが、
「もしかして私のこと聞いてない? 晴子さんから」と言った。
どうやら祖母の知り合いのようだ。あるいは親戚かもしれない。
「はい。何も」
僕がそう答えると、女の人は苦笑した。
「そっか。私、晴子さんの弟子の、桐嶋姫香です。そっちの部屋で居候させてもらってるの」
「弟子」
普段の生活では聞かない言葉に意表をつかれた。
「うん。弟子」
姫香さんは自分の顔を指して言った。
芸術家なら弟子が出来ることもあるんだよな、と僕は理解した。
「部屋って、ベランダがある方ですか?」
さっき姫香さんが、そっちの部屋、と言って指した方向には、部屋が二つあったので、僕は聞いた。
「そう。ある方」
「姫香さんみたく、ここに住んでる人ってまだいるんですか?」
この広い家にはもっと人が住めそうだった。
僕の部屋と姫香さんの部屋の間にベランダのない部屋が一室あるし、一階の方にも誰かを住まわせられるような部屋があるかもしれない。
だが姫香さんは首を振って、
「ううん。私だけ」と言った。
「そうですか」
ほっとしたような、残念なような、そんな気持ちになった。
「これからよろしくね。本借りにこっち来る時とかあると思うから」
「こちらこそよろしくお願いします」
今更ながらちゃんと挨拶した方がいいだろうと思って、僕は正座をして頭を下げる。
そして顔を上げると、にっこりと笑っている姫香さんが、
「ねえ、私の部屋に来ない? 作りかけだけど、私の作品があるんだ」と言った。
「行きます」と僕は立ち上がった。
姫香さんは嬉しそうに頷き、そして僕を部屋に案内した。
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