序奏 その第三小節
草原にたたずみ、風の音を聞きながら、行く先に想いを巡らせている。アシンタは見えない眼差しを太陽に向けた。
「わたしがこう想っていることを、きっと、神はご存じだ。わたしの妬む心も。そのために弟のルフサを殺そうとしていることも。
でも神は見ているだけで、それを留めようとはなさらないだろう。わたしの眼が見えないことに同情を持ってくださるだろう。ルフサの富が正しくないものだと、分かってくださるだろう。
わたしの妻になるはずだった女たちがルフサのもとに嫁ぎ、わたしの富になるはずだったものがすべて、ルフサのものになり……わたしは、なんの力もないただの老人になっていく。
あとは、死が訪れるのみ……見えないことよりもさらに暗い世界がわたしを取り巻いている。
さて、息子は、うまくあの贈り物を届けただろうか。
首尾よくいけば、わたしの気持ちも晴々とする……おそらく、晴々とするだろう。長いあいだ、それを望んでいたのだ」
アシンタの望みが何であるのか、神すらも知るまい。
アシンタ自身でさえも、本当の望みがどれなのか分からない。
殺したいと想う気持ちが真の望みであるとは、むろん彼は想っていない。
今となっては、なにも戻らない。
だが他に
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