序奏 その第二小節

 マローナは、ウワンデが部屋を出ていくのを見て、ドアに鍵をかけた。

 今夜はもう、ひとりになりたかった。

 ウワンデとの情交は素晴らしいが、それだけだった。彼はただの人形にすぎない。夫の代わりに慰めてくれる色事にけた忠実なしもべ。


 マローナは、異国の男の、十四番目の妻になった。けれど、たった一度手に触れたきり。夫とは、いまだに肌を合わせたことはない。


 あてがわれた豪奢な屋敷で、思うまま贅沢を許され、かしずく男が愛儀の術を仕込む。妻たちは捕らわれた鳥のように飛ぶことも忘れる。


 ウワンデがドアを叩いても、彼女は返事もしないで眠ったふりをしていた。



 マローナは、このごろ時々同じ夢を見た。


 夢に出てくる男は見知らぬ人物だし、恐ろしい形相でマローナを睨んでいる。

 それなのに、彼女はその男が気にかかった。

 やがて、その男に抱かれることになるだろうという、微かな予感があった。

 男の体臭が、なぜだか懐かしい記憶の中にあった。


「貴方は誰なの。何処にいるの」

 枕を抱きしめながら、マローナは呟いた。

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