取材メモ⑦:まさか迷子っすか!?

 神聖歴六一〇三年・皋竜こうりゅうの月第七日・天気:―


 大変! 大変! アイナちゃん大ピンチっす!

 ナメークハンターズさんたちとダンジョンの探索を初めて今日で三日目、予定より少し早いもののそろそろ撤退しようという話になってたんっすよ?

 なのに……なのにぃ! なんとアイナちゃん、現在ひとりぼっち! 迷子っす!

 

 うぅ……もう帰れると浮かれて油断したのが不味かったっすね。

 ふと気づけば、目の前にナメークハンターズさんたちの姿はなく……。

 ぐすんっ……地図もなしにこれからどうしたらいいっすか?

 アイナちゃん、このままダンジョンで死んじゃうかも……。


 最悪の未来を想像して泣きそうになっていると、なにやら腰のポシェットに違和感が……。えぇ……なんか動いてるっすよ!?

 い、一応確認したほうがいいっすよね……。魔物の類が入り込んでいるかもしれないっすし……が、頑張れアタシ! アイナちゃんはやればできる子っす!


 腰ポシェットを地面に置き、右手で小剣を構えながら勇気を出して開けてみると……中からひょこっと現れたのは、手乗りサイズの蒼白い……馬?

 え~っと……もしかして、ナメークハンターズさんたちが飼っているケルピーっすか? 体の大きさを自由自在に変えられるって話でしたし……。


 困惑しつつ名前を呼んでみると、嬉しそうにトコトコと駆け寄ってくるケルピー。おぉ、やっぱりあの子っす! 名前は確かソシオ!

 それにしてもいつアタシの荷物に入り込んだっすか、キミ?

 昨日はニコさんの肩に乗っていたっすよね?


 尋ねつつ指で軽く突くと、くすぐったそうに体をよじるソシオ。

 ふふっ……なんだか少し元気が出てきたっす。

 よし、くよくよせずにとりあえず移動するっすよ! 前進あるのみ!

 どうにかしてナメークハンターズさんたちと合流するっす!


 そうして歩き始めると、アタシの先を進み始めるソシオ。

 えっと……これはもしかしてついて来いってことっすか?

 まさか、キミ……みんなのいる場所が分かるんっすか!?

 

 思わず問いかけると、自信ありげに頷いてくれたっす!

 やった! これでアイナちゃん、無事に帰れるかも!

 ソシオ! キミは素晴らしいケルピーっすよ!


 数十分後……やった! 無事に合流できたっす!

 皆さん、すっごく心配してくれていたっす……申し訳ない。

 特にリーダーさんなんてもう目から涙が溢れてたっすよ……。


 落ち着いてから話を聞くと、実はリーダーさんも初めてのダンジョン探索時にパーティからはぐれ迷子になったことがあるんだとか……。

 そのときの経験と重なり、気が気じゃなかったらしいっす。

 

 いや、しかし……リーダーさんの当時の話はヤバいっすね……。

 こうして冒険者を続けているのが不思議っすよ……辞めていてもおかしくない経験をしているのに……。

 周囲に愛されているのはこういう頑張り屋なところがあるからっすかねぇ?


 さぁ、ダンジョンの出口まであと少しっす! もう浮かれて油断しないっすよ!


 経理への申告用メモ

 特になし。

――――――――

 前日からの合計:金貨1枚、銀貨19枚、銅貨27枚


 色々と大変だったダンジョン探索ももうすぐ終わり! アイナちゃん、本当にすっごく頑張ったっすよね! (๑•̀ㅂ•́)و✧

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