取材メモ⑥:もうイヤっすぅぅ!

 神聖歴六一〇三年・皋竜こうりゅうの月第六日・天気:―


 ぐすんっ……うぅ、今日は憂鬱な気分の白猫アイナちゃんっすよぉ~。

 はぁ……まさか本当にダンジョンで一日過ごすことになるとは……。

 冒険者って想像以上に過酷な仕事なんすねぇ……。もうアイナちゃんは心が折れて泣いてしまいそうっす。だって女の子っすもん……。


 けど実際、こうして冒険者の仕事に付き合ってみると、男女混合のパーティが長続きしない理由がよく分かるっすねぇ……。

 たまに耳にする噂だと男女の関係でパーティに亀裂が! とか聞くっすけど、いやいやいや……事態はもっと深刻っすよ、これ。

 

 アイナちゃん的に一番問題なのはトイレっすよ、トイレ!

 単独行動は危険だからと常に誰かが見張りとして付き添って、近くで待機してるんっすよ? もう申し訳ないやら、恥ずかしいやらで……。

 同性同士でもこの状況……もしパーティに男性がいたらと考えると、思わず尻尾の毛がブワッと逆立つっすよ! ブワッと!


 あとはお風呂っすよねぇ……。

 魔物との戦闘で汗をかいたり、返り血を浴びたりしているのにお風呂に入れないとか地獄っす。そんな状態で異性と一緒に行動するとかあり得ないっすよ……。

 アイナちゃん、そこまで女の子をやめたくないっす!

 いやー、ナメークハンターズが女の子だけの冒険者パーティで本当によかった、よかった。


 なんて思いつつ、今日もダンジョン探索の開始っす。

 ちなみに現在は第一階層をマッピング中。予定ではこのまま第二階層へ進むらしいんすけど、アイナちゃんは早く王都へ帰りたいっす……。

 そして経費で美味しいものを食べたい……新鮮な魚とか……。

 こんなに頑張ってるんだから少しは許されるはずっすよ……多分。


 さて、昨日からの探索で分かったことは、このダンジョンには蜥蜴系の魔物が多いってことっすねぇ。

 あのあとも何度か戦闘になったっすけど、蜥蜴しか出てこなかったすから……。


 とか考えていたら、なにやら足音が聞こえてきたっす。

 噂をすればなんとやら……早速、蜥蜴との戦闘っすよ!

 みなさん頑張ってください! アイナちゃんは邪魔にならないよう後方で大人しくしてるっすから!


 けれど、気配はするものの一向に姿を見せない魔物……。

 これはどういうことっすか? と困惑していると天井から右肩になにかがベチャーッと垂れてきたっす!

 ヒィィッ! なに!? なんなの!?

 

 慌てて上を見上げると、満月のような黄色い眼が二つ……。

 いたぁぁ! いた! いたっすよ! 天井に張り付いてる!

 巨大なヤモリ、キングゲッコーっす! ちょっ!? 舌を伸ばすなぁ!

 アイナちゃん、美味しくない! 美味しくないから!


 数分後、ダンジョン内を縦横無尽に駆け回るキングゲッコーはどうにか討伐されたっす……されたっすけどぉ……。

 うぅ……ヤツの唾液やら血やらでベトベトのヌルヌルッすよぉ。

 もうヤダァァ! アイナちゃん、お家に帰る! 帰るっす!


 経理への申告用メモ

 特になし。

――――――――

 前日からの合計:金貨1枚、銀貨19枚、銅貨27枚


 お家帰りたい、お風呂は入りたい、美味しいお魚でお酒飲みたい……アイナちゃん、もう限界かもっす……。˚‧º•(˚ ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥ )‧º•˚

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