306日目:火鼠の外套……。
神聖歴六一〇三年・
ふふっ、今日は外套を注文しに武具店へ行きますよ! 楽しみです!
それにしても今朝はなんだか寒さが和らいでぽかぽかしますね……。
折角、毛皮で外套を作るんですから、もう少し寒さが続いてほしいです。
え? ここ数日寒いと愚痴を言っていたのは誰かって? だ、誰でしょうね?
そうこうしていると、武具店の前に到着しました。
中に入り声をかけると、奥からのそのそと歩いてくる店主のちょび髭おじ様。
おはようございます、おじ様! 追加注文にきましたよ!
しかし、用件を伝えると、少し待つように言い残しおじ様は店の奥へ戻ります。
その後、聞えてくる金属音……もしかして作業の途中だったんでしょうか?
暫くすると、すまん、すまん、と言いつつ戻ってくるちょび髭おじ様。
話を聞くと、やっぱり作業中だったみたいです。今は私の鎧を製作中だとか。
どんな感じの鎧か少し気になりますが、楽しみはあとに取っておきましょう。
それより今は追加注文です! おじ様! これで外套を三着作ってください!
私とサマラさん、ルイナさんの三人分……素材はギリギリ足りるはずです。
けれど、火鼠の毛皮を受け取った瞬間、おじ様は厳しい表情を浮かべます。
うっ……一匹分の火鼠の毛皮で外套を三着は流石に無理な注文でしたかね?
そんな心配をしていると、これ水に濡らしたかい? とおじ様に尋ねられます。
え? あ、はい。濡らしたというか、討伐時に水で弱らせたというか……。
質問の意図が分からず困惑しながらそう答えると、深い溜め息をつくおじ様。
そして、どこか呆れた様子で火鼠の毛皮の性質について説明してくれます。
それによると、加工前の火鼠の毛皮は水に濡らしてはいけないんだとか。
もしも水に濡れると毛皮の耐久性が下がり加工が難しくなるそうです。
え? ということは、この毛皮で外套を作るのは無理なんですか!?
思わず絶望の声を上げると、元には戻せるが高いぞ? とちょび髭おじ様。
そうして提示された金額は……えぇ!? なんでこんなに高いんですか!?
……これなら火鼠の毛皮を買い直したほうが断然安く済みますよ!?
驚く私に、まぁ、そうだな、と気の毒そうに頷くおじ様。
うぅ……大失敗です。もっと火鼠について調べておくべきでした。
けど、これ以上依頼のたびに寒さに震えるのは嫌ですし……。
仕方ありません……おじ様、お店にある防寒着をいくつか見せてください。
……なんだかどれも地味で可愛くないですけど我慢して選びましょう。
その後、茶色の野暮ったい外套を三着買ってお店をあとにしました。
……うん、意外と暖かいです。でも……痛い出費でした。
あ、火鼠の毛皮はおじ様がお情で買い取ってくれましたよ。
まぁ、ほとんど値段は付きませんでしたけどね……。
はぁ、なんだかやる気がなくなりました……。
今日はもう宿でゆっくり休みましょう……悲しいです。
今日の収支
銅貨:+5枚(毛皮売却費)
銀貨:-7枚(宿泊費×6+ソシオ)(食事◎、寝床◎)
-30枚(外套×3)
――――――――
残金:金貨1枚、銀貨49枚、銅貨59枚
o(T^T)o うぅ……火鼠の外套がぁ……。
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