289日目:旅立ちと銀の鍵。

 神聖歴六一〇三年・初春鼠はつはるねずみの月第二七日・天気:晴


 夜が明ける前に私はそっと部屋を抜け出しました……。

 そのまま静かに移動し教会堂の外へ……門の前に着くと、そこには複数の影が。

 冒険の支度をしたノアさん、ニコさん、ルルちゃんにサマラさん、ソシオです。

 見送られると泣きそうなので、子供たちが寝ている間にこっそり出発です……。

 

 音を立てないよう慎重に門を開けたら、一人ずつ門の外へ。

 全員が外に出たら門を閉め、教会堂へ向かって一礼します。

 すると、なぜか目から涙が込み上げてきました……。

 

 ぐすん……やっぱり黙って出てきて正解でしたね……。

 子供たちやサールさんに見送られたら絶対泣いています。

 周りを見ると皆も目に薄っすらと涙を浮かべていますし……。

 けれど、いつまでもこうしてはいられません……早く立ち去らないと。

 皆! 悲しいけど行きますよ! 冒険者に別れは付き物なんですから。


 そう言って歩き出した瞬間、外套のポケットから何かが音を立てて落ちました。

 拾い上げてみると一枚の白い封筒です……差出人の名は……サールさん!?

 予想外の名前に驚きつつ暗がりの中で慌てて内容を確認します。

 封筒から出てきたのは一枚の便箋と小さな銀の鍵でした……。


 ……なんの鍵でしょうね? 手紙を読んだら何か分かるでしょうか?

 謎の鍵に首を傾げつつ、とりあえず便箋の内容へと目を通します。


『親愛なる冒険者の皆さんへ。

 あの子のことなので、きっと黙って出発すると思いこの手紙を忍ばせます。


 その銀の鍵は数年前にある冒険者が教会へ置いていったものです……。

 どこの鍵かは分かりませんが、アナタ達の手元にあるほうが役に立つでしょう。

 今後の冒険が実り多きものになることを、この教会から日々祈っています。


 最後に一つ、いつでも帰って来なさい……。

 この教会はもうアナタ達の家でもあるんですから。

 冒険に疲れた時、挫けそうになった時、私達の存在を思い出してください。


 教会へ尽力してくれたアナタ達へ心から感謝を込めて:サール・カログリア』


 うぅ……サールさんには色々とお見通しだったみたいです……。

 ……なんだかこっそり出立した自分が急に恥かしくなってきました。

 でも、サールさん……ありがとうございます。

 いつでも戻ってきていいって……帰る場所があるって幸せですね。


 よし! とりあえずこの謎の鍵を冒険者ギルドで調べてみましょう。

 ふふふっ、もしかしたらとても凄いお宝の鍵かもしれません!

 財宝が手に入ったら、あのボロボロの教会を立派にできますね。

 でも、すぐに結果は出ないでしょうから今日は適当な依頼で暇潰しです。

 

 ただ、久々の依頼なので薬草採取とか軽めのものを受注しましょう。

 まだまだ寒くて薬草不足みたいですし、ちょうどいいです。

 さて、それでは改めて冒険者ギルドへ出発です!

 今日からまた新しい冒険者生活の始まりですよ!


 今日の収支

 銀貨:+5枚(依頼報酬。報酬増額中)

 銀貨:-4枚(宿泊費×5+ソシオ)(寝床◎、食事◎)

    -2枚(鍵の鑑定依頼)

 ――――――――

 残金:金貨1枚、銀貨5枚、銅貨26枚


 (^▽^)/ 別れは悲しいですが、また冒険を頑張ります!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る