288日目:責任と決断。

 神聖歴六一〇三年・初春鼠はつはるねずみの月第二六日・天気:晴


 う~ん……指名依頼が完了して一晩たったわけですが……どうしましょう?

 依頼終了後は教会を出て、冒険生活に戻る予定だったんですけど……。

 ……いざその時を迎えてみると、なんだか気持ちの整理がつきませんね。

 

 この依頼を受注してから約二ヶ月、教会で生活を始めて一ヶ月と少し。

 ……その間、本当に色んなことがありました。

 それらを思い出すと、このまま教会を去るのがつらくなるほどです。

 でも、どんなに名残惜しくても旅立たないといけませんよね……。


 というわけで、パーティメンバーとサールさんを応接室へ呼び話をしました。

 内容は指名依頼が完了したことと今後の予定について……。

 子供たちにはこの話し合いが終わってから改めて説明するつもりです。

 

 話し終えると、皆どこか困惑した様子でお互いを見つめ合います。

 ……気持ちは分かります。あまりにも呆気なく終わりましたからね。

 あの感じだともう暫く……数ヶ月ぐらいはダラダラと続きそうでしたし。

 そう考えると依頼完了の承認をしてくれたブランさんには、やっぱり感謝です。

 依頼達成が遅くなればなるほど、別れが悲しくなりますから……。

 

 さて、以上で連絡は終わりです。

 明日には撤収するのでパーティメンバーは各自準備をしてください!

 指示を出すと釈然としない表情ながら各々頷き、部屋の片付けへ向かいます。

 そうして皆が退室すると、応接室には私とサールさんだけが残りました。


 二人きりの無言の空間……その沈黙がほんの数分なのに物凄く苦痛です。

 まるで今の状態の教会から去ることを暗に責められているような気さえします。

 でも、何を言われても受け止めるしかありません……。

 この依頼を受注したのも、教会を去る決断をしたのも全て私です。

 世界を自由に旅する冒険者だからこそ、その責任からは逃れてはいけません。


 しかし、改めて覚悟を決めた瞬間、サールさんから優しく抱き締められます。

 そして、ありがとう、私達は大丈夫ですよ、と頭を撫でてくれるサールさん。


「ここから先は、私達自身で頑張ることだから安心して良いんですよ……。

 そう思えるのも、アナタ達が一生懸命に働いてくれたお陰なんですから。

 だから、胸を張りなさい……アナタ達は立派に依頼を達成したんですよ」


 その言葉に私は思わず涙を流してしまいました……。

 沢山失敗して、あんなに間違って、色々迷ったのに、それでも立派だったと。

 そうやって挫けても一歩、一歩、進んだからこそ今の教会の姿があるんだと。

 そんな風に言ってもらっているみたいで、凄く嬉しかったんです……。

 ……サールさん、ありがとうございます。


 その後、子供たちにも経緯を説明し、教会を去ることを伝えました。

 最初は意味が分からなかったようですが、理解するとどの子も大泣きでしたね。

 でも、最終的には皆納得し、笑って今後を応援してくれました……。


 夜は皆でお別れ会をしました。

 ……どの料理もなぜか少しだけしょっぱかったです。


 今日の収支

 特になし

 ――――――――

 残金:金貨1枚、銀貨6枚、銅貨26枚


 。・゚゚ '゜(*/□\*) '゜゚゚・。  悲しくなんてないのです。

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