242日目:教会に響く――。

 神聖歴六一〇二年・黄冬猪おうとういのししの月第一一日・天気:晴


 今日は朝から教会へ行く予定にしています。

 ただ、ここ二日の調査結果が散々だったので気分は憂鬱です。

 はぁ……なにかいい案が見つかると思ったんですけどね。

 サールさんにどう報告したものか……今から頭が痛いです。


 そんな心境だったので教会に着くと、思わず溜め息がこぼれました。

 ……本当ボロです。ボロボロです。どうしてこんなにボロなんですか?

 鉄製の門は錆だらけ、庭は荒れ放題、石造りの建物には無数の亀裂。

 ……こんな酷い状態の教会は他にはどこにもありませんでしたよ?

 頑張ろうと心に決めましたが、現実の厳しさに打ちのめされそうです。

 

 そうして一瞬弱気になりかけたその時、どこからか歌が聞こえてきました。

 とても優しくて綺麗な歌です……声の数から合唱みたいですね。

 ……でもどこから聞えてくるんでしょう?

 不思議な歌に聴き入りながら音源を探すと、それはすぐに見つかりました。

 この歌声は目の前のボロ教会から流れてきているんです!


 足早に教会へ向かい扉を開けるとその瞬間、歌が体を包み込みました。

 今まで微かに聞えていた歌声が、建物に入った途端に押し寄せてきます。

 まるで歌の洪水です。でも、決して煩いわけではありません。

 なんて言うんでしょう? ……歌声の海にいるみたいな感じです。

 ずっとこのまま歌を聴いていたい、そう思わせてくれる歌声です。


 そして、この歌を歌っているのは意外にも、教会の子供たちでした。

 祭壇の横でしっかりと列を作り真剣な表情で声を出しています。

 それに合わせて古いリードオルガンを奏でるのはサールさんです。

 その二つが見事に合わさり素敵な音楽を作り出しています。

 これは凄いです……というか奇跡です!

 廃墟同然の教会にまるで天上の聖歌隊が舞い降りたみたいです。


 ふふっ、子供たちにまさかこんな特技があるとは思いませんでした。

 うん、これは使えます! いや、使います!

 これほどの歌声なら宣伝すればきっと人が集まります!

 だって、それぐらい素晴らしい歌なんですよ?

 ルルちゃんとか感動して思わず泣いていますし……。


 歌が終わると、急いでサールさんへ相談してみます。

 この子供たちの歌を信者さん集めに利用できないかと。

 勿論これだけでは厳しいでしょうが切っ掛けにはなります。

 ……まずは人に集まってもらわないといけません。


 しかし、サールさんは首を縦に振りませんでした……。

 子供たちに教会経営のことで負担をかけることはできないと。

 お金とか関係なしに自由に歌っているから今の歌声なのだと。

 ……確かにサールさんの気持ちは理解できます。

 けど、これを使わないのはもったいないですよ……。


 その後、暫く話し合いましたが議論はまとまらずに終わりました。

 はぁ……やっと光明が見えたと思ったんですけどね。

 ……いや、諦めませんよ! あの歌声は皆に聴いてもらうべきです!

 

 今日の収支

 銀貨:-3枚(宿泊費×4+ソシオ)(寝床◎、食事◎)

 ――――――――

 残金:金貨5枚、銀貨8枚、銅貨83枚

    猫銀銭190枚

 借金残高:金貨12枚、銀貨86枚


 (-_-;ウーン どうにかしてサールさんを説得しないと。

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