210日目:その足跡を追って……。

 神聖歴六一〇二年・神楽狗かぐらいぬの月第九日・天気:―


 シュランゲ遺跡ダンジョンで捜索作業を開始して三日目。

 昨日のトーポさんの一件でパーティの士気は著しく下がっています。

 その中で特に酷いのがルルちゃんです……まぁ、気持ちは分かりますけどね。

 私も同じ状況になったら平常心でいられる自信はありませんし……。

 でも、ここは危険なダンジョン内です……塞ぎ込んだままではいられません。

 ……泣くのも悔やむのも、この依頼が終わった後です。


 さて、絶望的な状況ですが生存の可能性を信じてリンセさんの捜索は続きます。

 ……ここで役に立ったのがゾンビ化したトーポさんの残した痕跡でした。

 足を引き摺り移動していたので、その跡が通路にハッキリと残っていたんです。


 ギルドからの情報によれば二人はパーティを組んで行動していました。

 なら、トーポさんが亡くなる直前まで彼女は一緒にいたと考えるのが自然です。

 ……だとしたら、この足跡を辿っていけばリンセさんに会えるかもしれません。

 そんな儚い希望を胸に抱きつつ、通路に残る痕跡を頼りに歩みを進めます。


 ……でも、こうして歩いていると少し不思議な気分になりますね。

 まるでトーポさんが道案内をしてくれているような、そんな感じがします。

 ゾンビの特性を考えればただただ偶然残った痕跡のはずなのに……。

 死してなお、仲間を助けるために救助を求めダンジョンを彷徨っていた……。

 このどこまでも続く足跡を見ていると、ふとそんなことを考えが浮かびます。


 そうして進んでいると、床に大量の血が流れ乾いた跡が……。

 恐らくトーポさんはなんらかの原因でこの場で命を落としたのでしょう。

 今まで追ってきた足跡もここで途切れていますし……。

 あ……でも通路の先に別の足跡が……これは血でできたブーツの跡ですね。

 靴底に付いた血か怪我をした本人が流している血かは分かりませんけど……。


 ただ、一つ言えるのはここを移動した時点ではリンセさんは生きています。

 ……少なくともゾンビにはなっていません。

 残っている足跡は一歩、一歩、確実に踏みしめたものです。

 ゾンビだとどうしても引き摺ったような跡が残りますから……。

 けれど、怪我をしている可能性もあるので急いだ方がよさそうです。


 焦る気持ちを抑えつつ遺跡の地図を広げ、ある場所を探します。

 ……ここから最も近い広場はどこでしたっけ?

 大抵の新米冒険者がダンジョンで道に迷うと目指すのは広い空間です。

 理由は簡単で、狭くて息苦しい通路から逃げ出したいから……。

 でも、ダンジョンではそれは最悪の選択です……。

 広い空間だとその分、魔物にも発見されやすくなってしまいます。

 加えてそんな場所は強力な魔物が縄張りにしていることがよくあるんです。


 ……見つけました。半日ほど進んだ距離に広場が記されています。

 リンセさんもきっとここへ向かっているはずです! 急ぎましょう!

 亡くなったトーポさんのためにも……リンセさんは絶対に助けるんです!

 

 今日の収支

 (特になし)

 ――――――――

 残金:金貨3枚、銀貨18枚、銅貨53枚

    猫銀銭190枚

 借金残高:金貨12枚、銀貨86枚


 (-人-;) 間に合ってください……。

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