209日目:そこに記された名前。

 神聖歴六一〇二年・神楽狗かぐらいぬの月第八日・天気:―


 昨日からシュランゲ遺跡ダンジョンでトーポさん達の捜索行っています。

 しかし、その作業は順調とは到底言えません。

 当初懸念していた通り罠が多くて思うように進めないんです……。

 

 落し穴、吊り天井、壁や床から突き出す槍などなど。

 第一階層でこのありさまだと……さらに下層の状況とか想像したくもありません。

 はぁ……罠がなければ凄く進みやすいダンジョンなんですけどね、ここ。

 

 元々が人工物なので通路は綺麗に整備されダンジョン特有の歩き難さは皆無。

 加えて天井にはマナ結晶を利用した光源が埋設されていて明りにも困りません。

 これらの特徴だけ見たらまさに理想的な初心者向けダンジョンです。


 もしかしたら、だからトーポさん達はここを選んだのかもしれませんね。

 全く、ちゃんと下調べをしないのは新米冒険者に共通する悪い癖です。

 私も調子に乗って油断することがあるのでよく分かります……。

 トーポさん達、無事だといいんですけど……不安ばかりが募りますね。


 心配で焦る気持ちを抑えながら、罠を見極めつつ慎重に通路を進みます。

 すると通路の角から足を引き摺るような音が聞こえてきました。

 そして周囲に木霊し始めるウゥ~ウゥ~という不気味な唸り声……。

 音が近付いてくると、次第に辺りを漂い始める酷い腐敗臭。

 あぁ……これは出会いたくない相手に遭遇したかもしれません……最悪です。

 そうして現れたのは予想通りの魔物――


 ――ゾンビです!


 ボロボロの革鎧に小剣。傷だらけの体は腐り、一部では骨が露出しています。

 ……ダンジョンで死亡した冒険者の哀れな末路。

 死してなお、ダンジョンを彷徨い続ける悲しい探索者。

 以前遭遇したスケルトンもそうですが、この手の魔物はどうしても苦手です。

 見た目の気持ち悪さもありますけど、やっぱり考えてしまうんですよ……。

 一歩間違えば、私もなにかの拍子にこうなっていたんじゃないかって……。


 ……感傷的になってはいけませんね。

 かつては同業者でも今は討伐すべき魔物です。

 早く倒してゆっくり眠らせてあげないと……。


 数分後、ゾンビはノアさんとルイナさんの魔術の炎で灰に還りました。

 スケルトンと違い心臓がマナ結晶化していないゾンビは燃やす必要があります。

 火系統の魔術が使えない場合は動きを封じてから体に火を放つのが常道です。

 ノアさん達がいたので今回は楽に処理できて助かりました。


 そんなことを思っていると、通路に落ちたそれにふと目が留まります。

 戦闘中にゾンビが落とした薄い板切れ……ギルドカードに似ていますね。

 拾って確認すると、やはり冒険者ギルドのカードです。

 運がいいですね……こういった場合ほとんど身元は分からないのに……。

 これならギルドに報告すれば親族へ連絡がいくはずです……よかったですね。

 

 けれど、カードに記された名前を見て言葉を失いました……。

 そこにあった名はトーポさん。これは最悪の結末が待っているかもしれません。


 今日の収支

 (特になし)

 ――――――――

 残金:金貨3枚、銀貨18枚、銅貨53枚

    猫銀銭190枚

 借金残高:金貨12枚、銀貨86枚


 (_ _;)……夢なら醒めてほしいです。

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