204日目:訪ねてきた新人冒険者。
神聖歴六一〇二年・
黒竜の小剣問題が一段落したので、今日から宿のお手伝いを再開します。
水汲みに、食堂のお掃除、野菜の皮むきなど以前と変わらない雑用の数々。
これで本当に料理が上達するんでしょうか? ……なんだか不安です。
宿のお仕事を終えたら、今度は冒険者ギルドへ。
……こっちが本業ですからね。それを疎かにしてはいけません。
さて、今日の依頼はなににしましょうか……。
夜にはまた宿の手伝いがあるので、日帰り可能なお仕事がベストですが……。
そんなことを考えつつ掲示板から依頼を選んでいると、突然声を掛けられます。
振り向くとそこにいたのは見知らぬ若い男女の冒険者二人組。
装備はどちらも粗末な革鎧に、使い古された丸盾、そして少し錆びた小剣……。
見るからにお金に困った駆け出し冒険者っぽいです……。
と、無遠慮に観察したためか、二人組は緊張した表情で黙り込んでしまいます。
対応に悩んでいると、あーッ! と驚いたような声を上げるルルちゃん。
すると彼女を見た二人組はどこか安心した様子で息を吐きだします。
えっと、ルルちゃんの知り合いですか? この人達……。
訊いてみると嬉しそうにルルちゃんは二人について教えてくれます。
黒髪でボサボサ頭の長身痩躯な男性冒険者はトーポさん。
肩でそろえた赤髪と切れ長の紅い瞳の二つが印象的な女性冒険者はリンセさん。
二人とも昇格試験の護衛依頼で一緒になった冒険者さんなんだそうです。
ふむ……その二人がなんの用事でしょう? ……少し嫌な予感がしますけど。
場所をギルドの酒場に移し話を聞いてみると、その予感が的中しました。
……この二人、私達のパーティに入れてほしいんだとか。
なんとなく予想はついたんですよ……。
彼らより若いルルちゃんが活躍できるなら自分達もと思うはずですから。
しかし、それは無理な相談です……。
私達にルルちゃん以外の新人を育成する余力なんてありません。
そのことを丁寧に説明すると、二人は絶望した様子で席を立ちます。
……もう少ししつこく粘ると思いましたが随分あっさりしてますね。
そんな彼らに、別れぐらい明るくしようと笑顔で話しかけるルルちゃん。
セルドさんは元気ですか? ってそいえば試験にはもう一人いましたっけ。
するとトーポさんは疲れ果てた顔で、アイツは死んだよ、と呟き目を伏せます。
それを聞いた瞬間、笑顔を引き攣らせるルルちゃん……。
……私もなんともいえない表情を浮かべてしまいました。
その後、彼らを見送りながらルルちゃんは縋るような視線を私に向けてきます。
でも、ダメです……冒険者をやっていたらこれは何度も訪れる問題です。
……一時の感情で手を差し伸べていたら共倒れになってしまいます。
冒険者は何事も自己責任。この道を選んだ時、彼等もそう覚悟を決めたはずです。
……けれど、やっぱりモヤモヤしてしまいますね。
今日の収支
銀貨:-3枚(宿泊費×4+ソシオ)(寝床◎、食事◎)
――――――――
残金:金貨5枚、銀貨54枚、銅貨53枚
猫銀銭190枚
借金残高:金貨17枚、銀貨76枚
(´-`) ンー これが正しい選択のはずなんです……。
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