201日目:黒竜の小剣。

 神聖歴六一〇二年・時雨鶏しぐれどりの月第三一日・天気:雨


 今日も宿のお手伝いはお休みしました……女将さん、ごめんなさい。

 それよりも重要なことがあるんです。料理を習うのは、宿の仕事はまた後日……。

 ……今は黒竜の小剣……これをどうするか考えないと。


 というわけで、色々試すために以前借りたギルドの訓練場へやってきました。

 ……中には剥き出しの地面と倉庫以外なにもないあの建物です。

 本当は外でやりたかったんですけど、天気が生憎の雨……。

 そんな中で小剣の能力が暴走なんかしたら大変なことになります。

 最悪の場合、周囲にいる全員が真っ黒焦げです……。


 さて、でもどうしましょう?

 今回は私達の他に使用者がいないので気兼ねせず広々使えますけど……。

 ……悩んでいてもアレですね。とりあえず剣を鞘から抜いてみますか。

 ノアさんも近くにいるのでなにかあってもきっと大丈夫なはずです。


 けれど、柄を握る手は自然と震え、周囲に金属音に似た硬質な音が響きます。

 ふぅ……落ち付け、私。なにも恐れることはないのです……。

 深呼吸をし、自分にそう言い聞かせ、ようやく鞘から剣を引き抜きます。

 そうして目に入る乳白色の剣身は、相変わらず曇り一つなく美しいまま……。

 でも、今はこの無垢な輝きが逆に恐ろしいですね……。

 ……綺麗過ぎるその剣身はなぜか私を拒絶しているように感じてしまいます。


 そんな不安から動けずにいると、見慣れない眼鏡をかけて近付いてくるノアさん。

 ……いつも眼鏡なんてかけていないのにどうしたんでしょう?

 不思議に思い訊いてみると、眼鏡はマナの視認性を上げる魔道具なんだとか……。

 ……でも、それを使ってなにを調べるんですか?

 その意図が読めずに困惑していると、剣と鞘を眺めつつ詳しく説明してくれます。


 ノアさんが知りたいのは、過去にマナ喪失状態にならなかった原因なんだとか。

 言われてみれば……前に小剣から紫電が出た時、私に異変はありませんでした。

 これはおかしな話です……あの時どこから小剣はマナを供給していたのか……。

 ……その謎さえ解ればこれからも安全に使うことができるはずです。

 ふ、ふふっ。なにやら少し希望が見えてきました!

 ……私はまだ黒竜の小剣とお別れしなくていいのかもしれません!


 結果、この日の内に調べ上げることはやはりできませんでした。

 しかし、収穫はありました。

 ノアさんによるとどうも白竜の鱗が変化した鞘に秘密があるそうです。

 鞘……鞘ですか……またあの変な夢を見ればなにか分かりますかね?

 ……よし、今晩は枕の下に小剣を置いて寝てみましょう!

 

 あ、あぁ!? 色々あって月末の税金を払い忘れたのです!

 ……いえ、明日払えば大丈夫ですね?

 眼帯お姉さんに怒られそうな気もしますけど……その時は、その時です。

 

 今日の収支

 銀貨:-3枚(宿泊費×4+ソシオ)(寝床◎、食事◎)

 ――――――――

 残金:金貨5枚、銀貨54枚、銅貨53枚

     猫銀銭190枚

 借金残高:金貨17枚、銀貨76枚


(*'-'*) なにか夢で分かるといいですねぇ……楽しみです。

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