193日目:白いドラゴンと黒竜の短剣。

 神聖歴六一〇二年・時雨鶏しぐれどりの月第二三日・天気:晴


 荒野を抜け、ようやく大渓谷へ辿り着きました!

 見渡す限りの赤い大地と切り立った崖。生命の気配も希薄な過酷な世界です。

 目指すドラゴン観測所まであと少し。頑張って今日中に到着したいですね……。

 

 休むことなく歩き続けること数時間。

 側面に無数の四角い穴が開いた奇妙な崖が姿を現します。

 あれはなんでしょう? まだ距離はありますが魔物の巣とかじゃないですよね?

 思い出すのは以前ダンジョンで遭遇したウォーター・リーパーの棲家です……。

 このまま進むとあの崖下を通ることに……道を変えるべきでしょうか?

 

 悩んでいると、ようやく観測所が見えてきたね、と安堵した様子のルイナさん。

 驚いて詳しく話を聞くと、あの崖が目指す観測所なんだそうです。

 周辺の魔物から襲われないよう、崖の内部に施設があるんだとか。

 なるほど、あの穴は窓とかそういう感じのモノなんですね……安心しました。

 そして、あそこなら夕方までには到着できます。もうひと頑張りです!


 観測所が目前に迫り俄然やる気を出していると、急に辺りが薄暗くなります。

 空を見上げると、そこには巨大な影……白い……ドラゴンです。

 ワイバーンの数倍の大きさ……下手すればあのクラーケンすら超えます。

 その翼が生む風は雲を裂き、尾の一振りで大地が割れ、咆哮は世界を震わせる。

 伝承は全て真実だった……そう確信できるほどの圧倒的な存在。

 これが……これが本物のドラゴン……全ての生き物の頂点……天空の支配者。


 それが今、ゆっくりと私達の目の前に降り立ちます……。

 これはもう逃げるとか、隠れるとか以前の問題です……戦闘とか論外。

 ふふっ……好奇心は冒険者を殺しますね。

 本物のドラゴンを見たいとか考えるんじゃありませんでした。

 ……遺書を、せめて誰かに手紙を残す時間ぐらいはあるでしょうか?


 自身の死を受け入れそうになった瞬間、黒竜の短剣から弾け飛ぶ鞘と術符。

 勢い空中へ投げ出された短剣は、その身に紫電を纏い白竜の眼前で制止します。

 宙に浮き、白竜を威嚇するように紫電を発する短剣……。

 もしかして、私達を護ってくれている?

 そんなことを思っている間も睨み合う白竜と短剣……これは迂闊に動けません。


 けれど数分後、白竜は急に私達への興味を失くした様子で空へ帰っていきます。

 去り際、なぜか一瞬白竜が笑った、そんな感じがしましたが気のせいですよね?

 ……あれ? 上空からなにか落ちてきました。

 キラキラと白く輝くそれは一枚の鱗。といっても大きさは両手で抱える程。

 しかし詳しく調べる前に、その鱗へスーッと短剣が引き寄せられ輝きだします。


 光が消えると、そこに現れたのは純白の鞘に包まれた見慣れない小剣でした。

 でも、分かります……小剣だけどこれは黒竜の短剣です。気配が同じですから。

 う~ん、色々不思議ですが、とりあえず全員無事だからいいですね!


 さぁ、これ以上なにかが起こる前に急いで観測所へ行きましょう!


 今日の収支

 (特になし)

 ――――――――

 残金:金貨1枚、銀貨50枚、銅貨53枚

    猫銀銭190枚

 借金残高:金貨17枚、銀貨76枚


 ・゚・(ノД`;)・゚・ 凄く恐かったのです!

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