191話目:空からの襲撃者再び。

 神聖歴六一〇二年・時雨鶏しぐれどりの月第二一日・天気:雨


 ドラゴン観測所を目指して九日目。

 今日から街道を外れ、大渓谷へ続く荒野を進むことになります。

 そこは優男さんに教えてもらったこの任務で最も警戒が必要な場所。

 ……数多くのワイバーンが空から襲ってくる危険地帯です。


 ただ、ルイナさん曰く今回は雨が降ったお陰で晴天時より比較的安全だとか。

 この雨足なら上空は視界も悪く、周囲の匂いも容易には分からないだろうと。

 けれどワイバーンを注意しない分、黒竜の短剣へ気を配るように助言されます。


 その黒竜の短剣が今どんな状況かというと……術符で簡易的に封印中です。

 流石にあの状態では手出しができませんでしたからね……仕方ありません。

 しかし、あくまでも応急処置。術符がどこまで耐えられるかは未知数です。

 実際、纏っていた紫電こそ抑えましたが、威圧感はまだ残ってますからね……。

 あ、術符は魔術を制限中のノアさんに代わりルイナさんが用意してくれました。

 ルイナさん……魔術も使うことができるなんて……羨ましいです。


 そんな感じでワイバーンの襲撃と短剣の暴走に用心しつつ移動は続きます。

 でも、ワイバーンを含む魔物達は短剣の気配を警戒してか全く姿を現しません。

 ……なんてことを考えていると、ソシオが急に走る速度を上げます。

 

 まさかと思い空を見上げるとそこには大きな黒い影が……ワイバーンです。

 この状況で襲ってくるということは相当に切羽詰まっているのでしょう……。

 ……けれど、こちらも大人しく襲われる訳にはいきません。

 ノアさん、ルイナさん、迎撃です! 向かってくるなら容赦はいらないのです!


 私の声に頷くと二人は揺れるソシオに乗ったまま器用に弓を引き始めます。

 しかもノアさんに至ってはそれと同時にソシオを操る離れ業です……。

 絶え間なく続く矢の雨。そして、ついにその一本が翼を貫きます。

 上空で体勢を崩し、半ば墜落するように地面へ降りてくるワイバーン。

 ソシオの足を止め様子を窺うと、怒りに満ちたその双眸と目が合いました。

 でも、そこまでです。地に落ち、動きの鈍ったワイバーンは格好の的でした。

 次の瞬間には頭と心臓を正確に射貫くノアさんと、ルイナさん……。

 大空の覇者は短く咆哮すると、その巨体をゆっくり大地へ沈ませます……。


 その後、近くで詳しく観察するとワイバーンは予想通り随分痩せていました。

 ……空腹に耐えかねたからこそ、あの状況でも私達を襲ってきたんですね。

 さて、でもこの素材をどうしましょう? ノアさんはもう持てませんし……。

 もったいないけど討伐証明部位の逆鱗だけ回収して残りは放置ですかね……。

 

 ……いやいや、とりあえず回収できるものは剥ぎ取りましょう。

 私の兎さんリュックにも少しは入りますし!

 牙や爪、角など希少価値の高い物を優先的に確保です。

 余裕があったらお肉も! だって超高級食材なんですよ?

 痩せていても美味しいに決まっています! さぁ! 急いで解体開始です!


 今日の収支

 ワイバーンの一部素材

 ――――――――

 残金:金貨1枚、銀貨50枚、銅貨53枚

    猫銀銭190枚

 借金残高:金貨17枚、銀貨76枚


 ('-'*) お肉、楽しみですね!

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