153日目:見失っていたモノ。
神聖歴六一〇二年・
朝になるとようやく雨が上がりました。
ふぁ……焚火が消えないように一晩中見張っていたので少し寝不足です。
……でも一人で冒険していた時はいつもこうでしたね。
無事に次の日を迎えられるか毎日がドキドキでした。
初野宿の時は野犬に襲われたこともありましたっけ……よく生きてましたね、私。
そんなことを思い出しながらテントを片付けていきます。
終わったら朝食です。と言ってもまた硬いパンと干し肉ですけど。
ふふっ、これも懐かしいですね……。
冒険者を始めた頃はこんな食事でも御馳走でした。
さて、食事を終えたら出発です。
でも……ここどこでしょうね?
街からそんなに離れてはいないはずなんですけど……。
う~ん、とりあえず日の出の方向に進んでみましょうか。
……暫く歩き続けましたが……余計に迷った気がしますね。
森の中を勘だけで歩くのはやはり無謀でしたか……。
……けれど心のどこかでワクワクしている自分がいます。
なんだか久々に冒険をしている……そんな気がするんです。
あぁ……本当、楽しいですね。
道に迷って本来なら不安になるはずなんですけど……。
このまま進んだらどこに行くんだろう。この先にはなにがあるんだろう。
……そういうことばかりが頭に浮かんで自然と歩みが早くなります。
……それでようやく気が付きました。
いつの頃からでしょう? この楽しいって感覚を忘れていたのは?
少なくとも冒険者になりたての頃はなにをしても楽しかったのに……。
知らない間に冒険は、お金を得る手段に変わっていました。
だからいつも捜す依頼は楽にサクッと稼げるお仕事が中心になっていて……。
同じように働くなら少しでも楽にお金儲けできるほうがいいって……。
違う、違います……これは私が憧れた冒険者じゃありません!
物語の彼らは儲からなくても色んな依頼を受けていました。
そこにあるのは純粋にそれが『楽しい』かどうか……。
だから彼らはあんなにも輝いていて、私の心を惹きつけたんです。
『冒険』は『楽しむ』もの。一番単純なことを私は忘れていました。
……忙しさのあまり見失いかけていたモノを少しだけ取り戻せた気がします。
夕方、やっと森から抜け出せました。遠くに見えるのはマーガの街の外壁。
門に着いた頃には、すっかり辺りは暗くなっていました。
その門の前には三つの人影が……ノアさん達です。
私に気が付くと、答えは見つかった? と微笑んでくれるノアさん。
疲れてませんか? お薬飲みますか? と駆け寄ってくるニコさん。
突然いなくなるから心配したのにゃ! と安心した様子のミアさん。
……皆、待っていてくれたんですね……嬉しくて思わず涙が溢れてきます。
こんないつも迷ってばかりの私には勿体無いぐらい素晴らしい仲間たちです。
うん、大丈夫。私はちゃんと帰ってきましたよ。だって冒険者ですから!
今日の収支
銅貨:+50枚(薬草等の売却費)
銀貨:-2枚(宿泊費×3+ソシオ)(寝床◎、食事◎)
――――――――
残金:金貨1枚、銀貨98枚、銅貨21枚
猫銀銭190枚
借金残高:金貨18枚、銀貨26枚
(*'-'*) 冒険は楽しむものです。
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