150日目:船渠内の黒い人影。
神聖歴六一〇二年・
昨日から深夜の船渠を見回るお仕事をしています。
日付が変わり、今から二度目の巡回へ行くところです。
うぅ……さ、最初で慣れたつもりでしたけどやっぱり気味が悪いですね。
……ノアさん! 絶対離れないでくださいよ!?
そうしてノアさんと手を握り合いながら再び深夜の船渠内を回ります。
べ、別に恐いわけじゃないですし! 船渠は広いから迷子対策です!
手を繋ぐことにそれ以上の意味はありません……本当ですよ?
……それにしても月が雲に隠れたせいで余計に周囲の不気味さが増しましたね。
一度目は月明かりに照らされていた場所も今では闇の中へ沈んでいます……。
……あ、あの船の陰とかなにかいたりしませんよね?
恐る恐るランプの明かりを向けると、ヒュッっとなにかが足元を駆け抜けます。
ヒィィ! なに!? なんです!? 今のなに!?
驚きのあまりその場でクルクル回っていると、大丈夫ただの鼠だよ、とノアさん。
な、なんだ……鼠ですか。も、もちろん分かってましたよ? 当然です。
はぁ……ダンジョンとかの魔物は不意に現れても割と平気なんですけどね……。
気持ちの問題だと思いますが、こういう状況は少し苦手です。
……なにが出てくるか事前に分かってないから不安が増すんでしょうか?
ダンジョンはある程度どんな魔物が出現するか把握できていますからね……。
そんなことを思って歩いていると、突然ノアさんが足を止めます。
視線の先には建造中の船の下で蠢く黒い人影が……。
ヒッ! な、なんですかアレ?
以前見たクラバウターマンとは違いますよね……彼らよりずっと大きいです。
あ、もしかしてミアさんが心配していたのってこの人影のことでしょうか?
……だとしたら渡された革袋の中身が役に立つかもしれません。
しかし、革袋を準備していると影がこちらに気が付きます!
一瞬ランプの明かりを眩しそうにすると、慌てて船渠の奥へ逃げようとする影。
けれどその行く手を水の壁が阻みます。流石ですノアさん!
突如現れた水の壁に右往左往している隙に影の背後へ回り込みます。
そして身を竦める影に容赦なく革袋の中身、白い砂を投げつけてやります。
……確実に当りました! でも影にはなんの変化もありません。
あ、あれ? 変ですね? 意外な結果に呆然としていると、再び逃亡を図る影。
ちょっ!? 待て! 追おうとすると影の前には既にノアさんが!
それに動揺して影が足を止めた瞬間、ノアさんの拳が突き刺さります。
体をくの字に曲げて倒れ込む影。
近付いて、顔を隠している黒い布を外してみると人間の男性でした。
うん……正体なんて案外こんなものです。
とりあえず拘束してあとで依頼主に引き渡しましょう。
……船渠で夜更けにこそこそしているのがいけないんですよ。
さて、もう暫くしたら夜明けですねぇ。
仕事が終わったら宿でゆっくり寝ましょう……色々精神的に疲れました。
今日の収支
銀貨:-2枚(宿泊費×3+ソシオ)(寝床◎、食事◎)
+6枚(依頼報酬)
――――――――
残金:金貨3枚、銀貨3枚、銅貨21枚
猫銀銭190枚
借金残高:金貨18枚、銀貨26枚
(_ _;)…パタリ 徹夜は辛いです。
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