130日目:モンスターハウス。

 神聖歴六一〇二年・月見羊つきみひつじの月第二一日・天気:―


 はぁ……昨日は大変な目に遭いました。

 もうあの虫とは絶対に出会いたくないですね。

 うん、嫌なことは忘れて探索に集中しましょう。それが一番です。


 といっても、今ちょっと問題が起こってるんですよね。

 あの虫の大群から闇雲に逃げ回ったので、現在地が分からないんです。

 海岸洞窟ダンジョンの第二階層ということは確かなんですけど……。

 複雑に入り組んだ道は地図で確認しても容易には判別できません。

 ……なので今まで以上に地図と睨めっこしながら慎重に歩みを進めます。


 暫く歩いていると、ドーム状の大きな空洞に出ました。

 地図を見ると第二階層にある空洞は二カ所。

 ふぅ、やっと現在地が分かりそうですね……助かりました。

 

 しかし安心したのも束の間、空洞内に響くキーキーという不気味な鳴き声。

 驚いて周囲を見渡すと、その声は天井に開いた無数の穴から聞えてきます。

 ……これは非常に不味い状況かもしれません。

 そう思った瞬間、穴から飛び出してくる一つの白い影!


 目の前に飛んできたそれを反射的に抜き放った小剣で斬り捨てます。

 ベチャッという生々しい音を立てて地面に落ちたのは白い蛙でした。

 ……でも、ただの蛙じゃありません。

 手足の代わりに飛び魚のような翼と魚の尾を持ったこの蛙は――、


 ――ウォーター・リーパー!


 空中を飛びまわる肉食性の危険な魔物です!

 普通は沼や池に棲んでるのがなんでこんな場所に……。

 って、ちょっと待ってください……今、天井の穴から出てきましたよね!?

 

 確認のために上を見上げると、全身から血の気が引く思いがしました。

 天井に開いた百を超える穴。そこからこちらを覗き見る無数の赤い眼光。

 ……まさか、あの穴の全てに潜んでるんですか!?

 これは無理です! 撤退! 撤退です!


 そう叫ぶと同時に、穴から落下してくるウォーター・リーパー!

 くっ……この距離だと逃げ切るのは厳しいですね……。

 やむを得ません! 迎撃しますよ!

 一旦、通路まで退いてそこで陣形を組みます!


 ニコさんはソシオと最後尾で待機!

 中間点にはノアさん! 弓や魔法でヤツらを撃墜してください。

 ミアさんは私と一緒に最前線へ!!

 絶対に後ろへ通したらダメですからね!?


 ……そうして決死の戦いが始まりました。


 戦闘が終わったのはそれから約三時間後。

 ……辺りには無数のウォーター・リーパーの死体が転がっています。

 もう体力的に限界です……剣を持っているのもキツイです。

 溜め息を吐きつつ、ニコさんから貰った回復薬を口に含みます。

 すると瞬く間に消えていく傷……相変わらず凄いですね。

 

 けど、まさか第二階層でモンスターハウスに出くわすなんて……。

 ミアさんがいなかったらここで全滅もあり得ました。

 ……これはこの階層で引き返した方がいいかもしれませんね。

 ちょっと予想外のことが起き過ぎています……。


 よし、撤収しましょう! 無理してパーティ壊滅とか笑えない冗談です。


 今日の収支

 マナ結晶×120

 ――――――――

 残金:金貨3枚、銀貨47枚、銅貨91枚

 猫銀銭190枚

(未換金:大蟹×12)


(ρ_;) やはりダンジョンは恐いところです。

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