119日目:大海魔クラーケン討伐戦。

 神聖歴六一〇二年・月見羊つきみひつじの月第一〇日・天気:晴


 朝になりました……朝になってしまいました。

 マーガの街の冒険者総勢八〇〇人によるクラ―ケン討伐がついに始まります。


 港は大勢の人でごった返していました。

 人の波をかき分けながら進み、ようやく船の前に辿り着きます。

 今回の作戦に参加する船はギルド船も含めた三隻のガレオン船です。

 そう、ギルド船も出撃するんですよ……旗艦として。

 この街の冒険者ギルドがガレオン船だった理由がやっと分かった気がします。


 私たちが乗る船は冒険者ギルド船トルメンタ号です。

 シユさんのパーティとは離れてしまいましたが仕方ありません。

 乗船して暫くするとラッパの音が周囲に響き渡ります……いよいよ出港ですね。

 街の人に見送られながら三隻の船はゆっくりと動き出しました。

 

 作戦海域に到着したのはお昼頃……今日も暑いですね。海上だとなおさらです。

 そんなことを考えていると、マストの上からカンカンカンッと鋭い金属音が!

 見張り役からの警戒音です! ど、どこに? どこにクラ―ケンが!?

 周囲を見渡していると、船の前方に突如として吹き上がる巨大な水柱!

 その中から姿を現したのは見上げるほど大きなイカ……大海魔クラ―ケンです!

 逃げも隠れもせず白昼堂々、悠然と登場した海の支配者に呆然となる私たち。

 ……こ、これを本当に討伐するんですか!?


 誰もが動けず立ちつくしていると、轟音が空気を震わせます。

 それはトルメンタ号から放たれた一発の大砲。

 戦闘開始! そう叫ぶエド船長。その一声で全員の金縛りが解けました。

 各々一斉に動き出します。瞬く間に海上を覆い尽くす音、音、音。

 放たれる大砲、魔術、叫び声……一瞬で大混戦です。


 射出機がないと飛ばせほどの大銛を魔術で数十本同時に撃ち出すノアさん。

 ニコさんの投げる薬品入りの小瓶は当たるとたちどころに大爆発します。

 皆、凄い……私も頑張らないと……銛を投げる程度しかできませんけどね。


 しかし、これだけ攻撃されればクラ―ケンも黙ってはいません。

 海上に出した二本の触椀を各船へ力任せに叩きつけてきます。

 それを防ぐのは魔術師系コミュニティの皆さん。

 防御結界を最大限に展開し各船を護ってくれます。

 けれど完全には消せない衝撃で軋む船。同時に襲ってくる嵐のような荒波。

 少しでも気を抜けば船から投げ出されてしまいそうです。

 なにか間違えばすぐ海の藻屑になる……そんなギリギリの戦いが続きました。


 そうして陽が沈みかけた頃、ようやくクラーケンがその身を海上に横たえます。

 まるで海へ沈むように静かに倒れるその巨体に、最初は誰も状況を理解できませんでした。でも波に力なく揺られる姿を確認すると、各船から大きな歓声が響きます。


 勝った! 勝ったんです、私たち!

 あの大海魔クラ―ケンに皆で力を合わせて打ち勝ったんです!

 夢のような現実に震えているとノアさんとニコさんが笑顔で抱き付いてきます。

 皆無事でよかったです。


 さぁ、帰りましょうマーガの街へ! クラ―ケン討伐大成功です!


 

 今日の収支

 特になし

 ――――――――

 残金:銀貨77枚、銅貨93枚

    猫銀銭190


。・゚・(ノ∀`)・゚・。 まるで夢みたいです。

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