99日目:痕跡……。

 神聖歴六一〇二年・七夜馬ななようまの月第二一日・天気:晴


 今日からケット・シーのブランさん達をマーガの街まで護衛するお仕事です。

 本当なら護衛任務は嫌いなんですけど、頑張りましょう。

 

 クー・シーのマヴロさんが引く荷車の横を、私達はケルピーに乗って走ります。

 マヴロさんが割と速いのでこの調子なら、あと数日でマーガの街に着きそうです。

 盗賊なんかに出会わずに終わりたいですねぇ。


 そう思ったんですが……お昼頃それに遭遇してしまいました。

 進む街道の少し先に見えたのは無残に破壊された一台の馬車。

 その上をカラス等が飛び回り、周囲には数匹の野犬の姿が。

 暫くして私達が近付くと、一斉に散らばって行く動物達。

 

 ケルピーを止め、背を降りて壊れた馬車を調べます。

 近くで見ると更に酷いですね……至る所に血の跡が。

 うっ……乗っていた人の遺体は、動物に食い荒らされてバラバラです。

 この様子だと襲われてから大分日数が経っていますね。

 当り前ですが荷物は全て奪われている様です。

 ……せめてこの人達の身元が分かればいいんですけど。


 調べ続けていると、ノアさんが商標を見つけてくれました。

 う~ん、天秤? 見覚えのない商標です。

 しかし、ブランさんが知っていました。

 聞けば、マーガの街にある商会の一つらしいです。

 宝石やお酒等を扱っている大店なんだとか。


 うん、これで確実ですね。この馬車は盗賊に襲われたんです。

 荷物が食料なら動物や魔物の可能性もまだありましたけどね。

 宝石やお酒を根こそぎ持って行くなら盗賊しかいません。

 

 その後も調査を続けると、商業ギルドカードを数枚発見しました。

 多分、馬車の持ち主達のカードでしょう。見つかって良かったです。

 これがあれば商業ギルドに連絡する時、色々手間が省けます。

 さて、何時までもここにいる訳にも行かないので、そろそろ出発です。


 夕方、予定していた野営場所にどうにか到着出来ました。

 もう大分日も傾き始めたので、急いで野宿の準備に取り掛かります。


 全てが整った夕食前、皆が揃ったのを確認し、私は今後の相談をしました。


 内容は勿論、盗賊の件です。今、問題は二つありました。

 まず、あの馬車は襲われてから、少なくとも数日程経っている事。

 盗賊達はそろそろ次の獲物を探している筈です。

 なので今後は今まで以上に注意しなくてはならないというのが一つ。


 もう一つの問題は、あの場に護衛の痕跡が見つからなかった事。

 護衛には冒険者を雇う筈ですが、あの場にギルドカードはありませんでした。

 逃げ延びて街へ報告しに向かったとも考えられますが、別の推測も出来ます。

 それは、盗賊の中に冒険者が紛れている可能性。

 

 その瞬間、全員の表情が強張ります。

 皆、薄々感じていたんですね。あれはあまりにも妙です。

 宝石等を運ぶ商会が護衛を雇わないとは思えません。

 あの状態なら絶対、護衛の冒険者にも被害が出ている筈なんです。

 それなのにその痕跡が無いという事は……。

 

 これから先の道中、下手をすれば予想以上に厳しい事になる気がします。


 今日の収支

 特になし。

 ――――――――

 残金:銀貨4枚、銅貨1枚

    猫銀銭90枚


 (ノ_-;)ハア…この盗賊団は不味いです。出会いませんように。

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