96日目:ケルピー。

 神聖歴六一〇二年・七夜馬ななようまの月第一八日・天気:晴

 

 昨日は水浴びをした場所で野宿をし、朝を待って上流へ向かいました。

 暫く歩いていると、目の前に大きな淵が現れます。

 水が澄んでいるのに川底が見えません……相当深いですね。

 ケルピーが好みそうな環境です。


 さて、前日書いたケルピーを従わせる方法ですが、それはくつわをはめる事です。

 轡は馬に手綱を付けるために使う金具です。

 ただケルピーにはめる時にはその体に絶対触れてはいけません。

 ケルピーの体は一度触ると水に入るまで離れる事が出来ないんです。

 もしそんな事になったらそのまま水に引きずり込まれて……。

 なので今回は罠を仕掛け身動きを封じて捕まえる事にしました。安全第一です!

 

 罠はまず丈夫な縄の先端にワナ結びで輪を作ります。

 この輪は、元の縄を引くと引き締める事が可能です。

 それを地面に置き木の葉で隠し、もう一方の先端は丈夫な木に縛ります。

 ケルピーが通った瞬間、縄を引けば輪が狭まり捕獲できるいった感じです。

 罠というにはあまりにお粗末ですが、急拵えにしては上等でしょう。


 罠を仕掛け終え、茂みに隠れてケルピーを待ちますが……中々来ませんね。

 あ、そうだ! ニコさん、前ダンジョンで出したアレありますか?

 訊くと、コレですか? と腰ポシェットから取り出したのは泥団子。

 ではなく、そう見える魔物の誘因物質。これを使ってみましょう!


 泥団子に火を付け、罠の中心部に設置。

 暫く待つと……き、来ました! 周囲を警戒しながら近付いてきます。

 もう少し、もう少しです――今っ!

 ケルピーが右前足を輪の中に入れた瞬間、全員で一気に縄を引きます。

 瞬く間に小さくなる輪。足の自由を奪われ激しく暴れるケルピー。

 

 予想以上に抵抗しますね……急いで轡をはめましょう。

 そう思い近付きますが、何かが千切れるような音が!

 !! 縄が……切れた!?

 呆然として立ち竦んでいると、轡を持った私を目掛けて走ってくるケルピー。

 

 躱そうとしますが、すれ違うその一瞬に後襟を咥えられてしまいます。

 そして、私を咥えたまま淵へ跳躍するケルピー!

 刹那の浮遊感の後、目の前に迫る水面。

 慌てて息を止めるのと着水はほぼ同時。


 水に入ると私を離すケルピー。

 急いで水面へ顔を出し、息を整えます。

 岸の方から聞こえるノアさん達の叫び声

 え? 後ですか?

 振り返ると口を大きく開けて私に迫るケルピーが!

 

 あ、これは避けられません……水中ですし動きが……。

 諦めかけたその時、ケルピーの行く手を阻むように現れたのは光の盾。

 ノアさんの守護の指輪! 突然の妨害に目を白黒させるケルピー。

 今がチャンスです! 混乱している隙に轡を口へ!


 ――はまりました!


 するとケルピーは急に大人しくなり、私の周りをクルクル泳ぎ始めます。

 はぁ……一時はどうなる事かと。


 ケルピーの背に乗り岸に戻ると、涙目で抱き付いて来るニコさん。

 ノアさんもどこかほっとした様子です。心配をおかけしました。

 でもこれで明日からの移動が楽になりそうですね……あぁ~疲れた。



 今日の収支

 ケルピー1頭

 ――――――――

 残金:銀貨4枚、銅貨1枚

    猫銀銭90枚


 (-。-;)……死ぬかと思いました。思い付きの作戦は駄目ですね……やっぱり。

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