80日目:一人前の冒険者。

 神聖歴六一〇二年・七夜馬ななようまの月第二日・天気:雨/曇


 朝、私は宿の自室で兄から渡された短剣を手に取っていました。


 紅い鞘と金色の柄頭に家紋の彫られた短剣。私があの家の者だという確固たる証。

 抜くと現れるのは蒼銀の刀身。一目で業物だと分かるその輝き。

 儀礼用でありながら、実用性も兼ね備えた確かな品です。

 そこには家族の思いが感じられました……短剣なのに色々重いですね。


 そんな事を考えていると、ノアさんが部屋を訪ねて来ました。

 短剣を眺める私に、使うの? と尋ねてくる彼女。

 丁度ライ君に渡した短剣の代わりを用意しようと思っていましたけど……。

 少し悩んでから小さく首を横に振ります……まだ私には使う資格がありません。

 

 すると、じゃあ働きに行こうと言うノアさん。

 新しい剣を買う為に沢山稼ごうね! と笑顔を向けてきます。

 そうですね、今日も精一杯頑張りましょう!


 ……ギルドに着くと何故かギルドマスターから呼び出されました。

 しかも私だけ……最悪です。

 執務室へ向かうとそこには神妙な面持ちのギルドマスターが……。

 緊張しながら椅子に座り言葉を待ちます。


 暫く無言の後、兄とは話せたか尋ねてくるギルドマスター。

 それに頷くとギルドマスターは、今後も冒険者を続けるのか問い掛けてきました。

 悩むまでもないですね……私は冒険者を続けますよ! そう力強く宣言します。


 ギルドマスターは答えに満足した様に笑うと一枚のカードを差し出してきました。

 白銀の金属製で紅玉の埋め込まれたそのカードは――


 ――Cランクギルドカード! しかも名前は私!?


 それを受け取る様に促してくるギルドマスター……え、でも何故ですか!?

 困惑していると、ライ君の依頼完了時から昇格の話があったと説明してくれます。

 でも、調べてみると私が家出中等の問題が出てきたと。


 そこでギルドマスターの表情が一段と真剣なものに変わります。

 Cランクになればもう一人前の冒険者だと。今までとは違うのだと。

 下手をすれば親類や知人に迷惑の掛かる依頼を受けなくてはならない事もあると。

 だからこそ家族と確り話してほしかったとギルドマスター。

 

 ……つまりこのカードを手に取るならそれだけの覚悟を持てという事ですね。

 上等です! 私は冒険者として生きるんです!!

 カードを掴むと、ニヤリと笑うギルドマスター。

 これからも頑張れよ、ナメークハンター! って一言余計なのです!


 ギルドホールへ戻りノアさんに報告すると自分の事の様に喜んでくれました!

 そうだ! 今日はもうお仕事は止めてお祝いしましょう!

 二人で浮かれていると受付のお姉さんが気の毒そうに近寄ってきます。

 手には紙が二枚……察しました国民税です!


 あ……さっきランクが上がったから税金が上がってる!? 謀られた!?

 って、まだノアさんの方が高いとか、貴女は本当にランクいくつですか!?


 うぅ……ようやく一人前の冒険者になったのに……お金が欲しいです。


 今日の収支

 銀貨:-10枚(国民税)

    -15枚(国民税:ノアさん)

    -2枚(宿泊費×2)(寝床☆、食事☆)

 ――――――――

 残金:銀貨36枚、銅貨45枚

    猫銀銭30枚


 <(T◇T)> お金がガッツリ減ったのです。

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