79日目:帰るべき場所。
神聖歴六一〇二年・
ルン、ルン、ルン♪ もうすぐルーファの街に着きますよ♪
実は昨日、森を抜けた先にあった大街道が街にとても近かったんです!
でも普通ならそれはあり得ません。
あの森があんな場所に通じている筈はないんですから……。
考えられる理由はドリアードが用意した森の道です。
あれに距離を短縮する魔術的効果があったのかもしれません。
……案外、本当にいいヤツなのかもですねドリアード。
そうして昼過ぎ、ようやくルーファの街に到着しました!
早く冒険者ギルドへ報告に行きましょう!
ギルドでは何時ものように受付のお姉さんにとても心配されました……。
採取任務でこんなに日数が掛かるとは思わなかったと困った様に笑われます。
さて、報酬も受け取ったので後は宿を取ってゆっくり休みましょう!
そう思ったのに兄に止められます。
なんでも私と二人きりで話がしたいそうです……。
助けを求めてノアさんを見ますが首を横に振られてしまいます。
……仕方ないですね……これで最後です。頑張れ、私!!
お姉さんに頼んでギルドの応接室を貸してもらいました。
テーブルを挟み兄と向き合う形で椅子に腰を下ろします。
暫しの無言。その後先に口を開いたのは兄でした。
たった一言、家に帰って来い、そう言われます。
とても優しく落ち着いた声、でも有無を言わせない力のある声。
けれど私は俯き首を小さく横に振りました。
やっと冒険者になれたんです。今まで頑張ってきたんです。
素敵な仲間が沢山出来ました。色んな約束もあります。
まだまだ冒険したい場所も残っています。
だから、私は冒険者のままでいたい。家には帰りたくない!
ようやく見つけた、作った自分だけの場所なんです!!
とか面と向かって言えたら格好良かったんですけど……。
私は首を振った後、何も言えず沈黙してしまいました。
その様子に兄は深い溜め息を吐くとテーブルにゴトリッと何かを置きました。
顔を上げるとそこにあったのは一振りの短剣。
紅い鞘と金色の柄頭に家紋が彫られています……えっとこれは?
困惑していると、父からだと言って兄は言葉を続けます。
父は私が冒険者をやっている事を知っているそうです。
そして、冒険者を続けるならそれでいい。でも帰る場所が、家族の待っている家がある事を忘れるな、と伝えるよう頼まれたと。
それだけ言うと席を立ち、部屋を出て行く兄。
……父は、兄は、家族は私の事を認めてくれていた?
認めていなかったのは私の方?
そう思った瞬間、私は部屋を飛び出し随分遠くなった兄の背へ叫びます。
お兄ちゃん! ありがとう!!
振り返らずに手を振るお兄ちゃん……本当にありがとうございます。
つい涙ぐんでいるといつの間にか傍にいたノアさんが頭を撫でてくれました。
うん、ノアさん私、ちゃんと認められてたんですね……嬉しいです。
――こうして変な経緯で始まった指名依頼はようやく終わりを迎えたのでした。
今日の収支
銀貨:+5枚(指名依頼報酬)
-1枚(宿泊費×2)(寝床◎、食事◎)
――――――――
残金:銀貨63枚、銅貨45枚
猫銀銭30枚
自分で自分を認められたらいつか帰りますね……。
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