75日目:兄への笑顔。

 神聖歴六一〇二年・水蛇みずへびの月第二七日・天気:雨


 ……今日は雨です。もうっ!! 本当何なんですかこの天気は!?

 昨日はあんなに晴れていたのに……信じられません。

 まぁ、愚痴っても仕方がない事ですね……真面目に朝御飯の準備です。

 あ、いい感じに携帯食料が焼けてきました。急いでパンに挟まないと。

 ……食事はほぼ毎回これと干し肉です……うぅ、ノアさんのご飯が食べたい。


 朝食を終えたらまた移動開始です。

 指輪の光は段々と強くなっています。

 夜移動しない間も変化したので、ノアさんが休まずに捜索してくれてるんですね。

 ……あまり無理をしないで欲しいです。彼女に何かあったら私は……。

 うん、一刻も早くノアさんと合流しないと。頑張ります!!


 そんな感じで雨が降る中、岩の多い山道を歩いていると兄が唐突に訊いてきます。

 それは私が家を飛び出した理由でした……。

 父や兄達の母もとても気にしていると。訳があるなら知りたいと……。

 思わず黙り込んでしまいます……心配を掛けている自覚はありましたから……。


 暫く私が無言で俯いていると兄は優しく頭を撫でてくれました。

 そして答えを聞かずに独り先へ歩いて行きます……。

 驚いて顔を上れば、早くしないと置いて行くぞ、と笑う兄の姿が……。

 敵いませんね……。

 私が話しても話さなくてもそれを答えとして受け止めてくれる気がします。

 本当……優し過ぎますよ。


 その後も二人で山道を慎重に進んで行きます。

 あれから兄は家出の理由については何も尋ねてきませんでした。

 ただ代わりに私の今までの冒険について詳しく訊いてきます。

 それが兄なりの気遣いなのか分かりませんが、少し心が軽くなりました。

 

 沢山の事を兄に話しました……この約二ヶ月半、本当に色々ありましたからね。

 初めての依頼や野宿の事、お金で苦労した事、何度か死にかけた事等など。

 あ、ナメークハンターの話には大爆笑されました。

 アレは自分が騎士団にいた時でも討伐は避けられていたのにお前は凄いなと。

 

 そんな私の話は野宿の準備が終わり、寝る時間になっても続きました。

 何時しか兄に訊かれなくても、私は自然と喋っています。

 まるで私の今までの冒険を頑張りを認めてもらいたいかのように……。

 兄はそれを黙って頷きながら、時には笑いながら聞き続けてくれます。


 ようやく話が終わると兄は私を見詰め、少し見ない間に成長したなぁ、と優しく微笑んでくれました。

 それがとても嬉しくて思わずノアさんに向けるような笑顔を返してしまいます。

 しかし兄はそれにとても驚いたようでした。

 ……な、何ですか!! 私何か変な事しました!?


 そう怒ると兄は苦笑しながら謝ってきます。

 今のは仕方がないと、久々に会ってからここまで私がそんな自然な笑顔を向けてくれた事は殆どなかったからと……。


 もうっ!! 何で恥ずかしい事をそう真顔で言うんですかこの兄は!!

 話は終わったので私はもう寝ます!! おやすみなさい!!


 ――兄との帰還作戦はもう少し続きそうです……嫌だなぁ。


今日の収支

特になし

――――――――

残金:銀貨59枚、銅貨45枚

   猫銀銭30枚


(/-\*) 何であんな笑顔を向けたんですか私は!! バカバカバカ!!

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