73日目:崖下の濁流
神聖歴六一〇二年・
今朝は仮眠から起きても兄が横にいませんでした。
……本当、どうしたんでしょうね……昨日から様子が変です。
少し心配しながらテントの外に出ると、いきなりぎゅーっと抱き付かれます……。
不意打ちとはいい度胸です! 心配した私がバカでした!!
ノアさん笑ってないで助けて! え? 朝食の準備で忙しい!? そんな!!
朝食後に話し合った結果、今回は一旦下山する事になりました。
この天候でこれ以上探索を続けるのは危険という判断です。
でもどうして兄は
私に会うだけならもっと簡単な依頼でもよかった筈なんです。
それに連日じゃれつくだけで重要な話もしてきませんし……。
兄の真意が分かりません……。
そんな事を気にしつつ荷物を整え、雨が強くならないうちに山を下ります。
今歩いているのはこの山岳地帯でも有数の難所です。
人ひとりがやっと歩ける崖上の細道。すぐ横の眼下には急流の河。
足を踏み外さないよう一歩一歩慎重に進まないと……。
しかしそう思った矢先、雨に濡れた石で足を滑らせてしまいます。
あっ! と気が付いた時にはゆっくりと傾く身体。
ハッとしたノアさんと兄が手を伸ばしますが間に合いません。
私の体は自然の法則に従い崖下へと落ちていくのでした。
目の前に迫る雨で濁流となった川面……コレは駄目かもですね。
諦めかけていると突然、空中で誰かに抱き寄せられます。
それは兄でした……兄は私を護る様に抱き締め、大丈夫だからと耳元で囁きます。
まさか私を庇う為に崖から飛び降りたんですか!? なんて無茶を!!
あまりの無謀さに声を出そうとした瞬間、激流が私達を飲み込みました。
気が付くと私は岩だらけの川岸に倒れていました……助かった?
怪我は掠り傷程度……奇跡的です。
そうだ、兄は、兄は何処でしょう……岩陰から小さな呻き声!!
慌てて駆け寄ると兄は胸から下を水に浸し気を失っていました。
急いで引き上げますが、体が冷え切って震えています……コレは不味いです。
でも焦りは禁物です。こういう時こそ冷静沈着に且つ迅速に行動しないと。
まずは休めそうな場所を探します。
すると河から少し離れた場所に雨宿りできそうな洞穴が!
よし、あそこに運びましょう……くっ、細いくせに意外と重いですね!!
背に抱えて如何にか運び込みました……。
次は火を熾します。幸い野宿セットが兎リュックにあるので苦労はしません。
後は兄の濡れた服を脱がさないと……うぅ、何か嫌です……でも必要な事です!!
脱がし終えると火の近くに寝せ、兄の体を乾いた布で擦り続けます。
これで体が温まると何かの本に書いてあったんです!!
暫くすると震えが止まり、静かな寝息を立て始める兄……もう大丈夫です。
兎リュックから毛布を取り出し掛けてあげます。
さ、私も予備の服に着替えましょう……大分体が冷えてしまいました。
……ノアさん……どうしてますかね……あっちも心配です。
今日の収支
特になし
――――――――
残金:銀貨59枚、銅貨45枚
猫銀銭30枚
(ノ_・、)シクシク こんな事になるなんて最悪です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます