54日目:人探しと家出っ子

 神聖歴六一〇二年・水蛇みずへびの月第六日・天気:曇


 あぁ、やっぱり高級宿屋は朝食も最高です。

 早くこういった宿を拠点に活動出来るようになりたいですね。

 その為に今日もお仕事を頑張ります!!


 ギルドへ依頼品を納めに行くと中は妙な雰囲気に包まれていました。

 なんかこう空気が張り詰めてピリピリしてます。 

 原因は受付にいる王国正騎士の五人組ですか……。

 漆黒の全身鎧に深紅の外套、帯剣した長剣の柄頭には竜の装飾。

 ……高そうな装備ばかりです! 羨ましい!!


 彼らがいるから皆さん警戒してるんですね。

 冒険者も割と違法ギリギリの依頼を請け負ったりなど色々ありますからね……。

 あと手柄を騎士団に横取りされたりとか……。 

 そんな話をよく耳にするので気持ちは分かります。


 暫くすると五人は何事もなかったようにギルドを出て行きました。

 その瞬間、空気がどっと弛緩します……。

 彼らの対応をしていた受付のお姉さんも随分お疲れのようです。

 それでも私達が納品しに行くと完璧な笑顔を向けてくる辺り流石ですね。

 お姉さんが依頼品を確認している間に先程の正騎士達について尋ねてみます。

 単純に何の用か気になりますからね。


 すると案外簡単に教えてくれました。

 なんでも人探しをしているらしくその聞き込みだったそうです。

 ……そんな事で騎士団が動くとか余程の重要人物でしょうか? 

 疑問に思っていると、これ以上は詮索しないように注意されます。

 それに頷きながら報酬を受け取りその場を後にしました。

 ……心配しなくても大丈夫です。騎士とか貴族は嫌いです。


 ただクエストボードへ歩きながら少し考えます。

 そういえば私も一応家出っ子ですけど捜索依頼とか出ているんでしょうか……?

 家を出て二ヶ月近いですし……人探し掲示板を試しに調べてみましょう。

 とりあえずざっと眺めていくと――


 ――ありましたよ……。

 何故か特徴を曖昧にしてますけど、趣味嗜好など妙な情報が私と一致してます。

 加えて依頼人が決定的です。私の母方の姓を使っていますが兄の名前です。

 ……うん、こんなの剥がして燃やすのです!!


 依頼書へ手を伸ばそうとすると、その腕を掴まれます――ひっ!! ……ってノアさんですか。驚かせないで下さい……ギルドの職員さんかと思いました。

 安心しているとノアさんが耳元で囁きます。足が付くからその紙を剥がしたらダメだと。


 ……あ、なるほど! この曖昧な情報で私を特定出来るのは私だけです。

 つまり紙を剥がしてしまうと、私またはその関係者がここにいる事をみすみす兄に伝えてしまうと!! 私の答えに重々しく頷くノアさん。

 さ、流石です!! エルさんから一〇〇年も逃亡し続けただけはあります……一流の家出っ子ですね!!

 

 ならこれは放置です。後は今日のお仕事ですけど……ちょっとやる気が……。

 これも全て兄のせいです……仕事より宿に帰って今後の対策を考えないと……。


今日の収支

 銅貨:+75枚(屑マナ結晶×5)

 銀貨:+9枚(依頼物納品報酬)

    -1枚(宿泊費×2)(寝床◎、食事◎)

 ――――――――

 残金:銀貨54枚、銅貨8枚


 [壁]_・)チラッ に……逃げなくては!!

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