53日目:地下水路を駆け抜けろ!
神聖歴六一〇二年・
昨日考えた経路を地図で確認しながら移動中です。
えっと、ここが右で、次は……左? あ、違う直進ですか……ややこしい。
因みにノアさんはモップのようなモノを持って先頭で周囲を警戒中。
いや……完全にモップですよね?
第一階層はダンジョンより水路としての性質が強いのであまり魔物は出ませんけど……油断して足をすくわれないで下さいよ。
……うぅ、最悪です。
出口付近でラットマンに出会ってしまいました。数は三匹。
ラットマンは人型の魔物です。身長は成人男性程。特徴はやはりその顔でしょうね、そのまま鼠ですし。ただその若干コミカルな見た目に騙されてはいけません。
彼らは狡賢く身体能力もずば抜けています……正直出会いたくない相手です。
本来なら第一階層にはいないんですけどね……ツイてない。
でも、出会ったものは仕方ないですね。
剣を抜いて臨戦態勢に入ります……ってノアさんは本当にモップで戦うんですか?
向こうも此方に気が付いたようでチューチューと鳴きながら威嚇し始めます。
先に動いたのはラットマンでした。一匹がノアさんへ向かって駆け出します。
残りは――て、天井を走ってる!? そんなのありですか!?
唖然としているとノアさんの真上を通過し、私の眼前に着地する二匹。
狙いはこっちですか!!
片方が振り下ろす爪を剣で受け流した瞬間――水路内に不快な悲鳴が響きます。
右手から血を流し此方を睨みつけるラットマン……その足元には指が数本。
ふふん。ただの剣だと侮りましたね? 次は腕ごと斬り飛ばします!!
左右に剣を構え二匹と向かい合います。
指無しの方は警戒しているのか若干後退……狙うなら手前ですか。
間合いを計り一気に懐へ飛び込もうとした刹那、耳をつんざく様な鳴き声を発するラットマン。そして、そのまま水路に飛び込み、それに続く指無し達。
……逃げた? ノアさんも不思議そうに首を傾げています。
けれどその訳はすぐに分かりました。
通路の奥から迫る地響きの様な足音……目を凝らすと大量の鼠が津波の如く此方へ押し寄せてきます。
緊急事態です!! あの大群に襲われたら骨までしゃぶり尽くされます!!
ダッシュ! ダッシュです!! 出口まで急いで!!
慌てて駆け出しますが無情にも差はどんどん縮まります。
……何か、何か時間を稼ぐ手は……あ!!
全力疾走しつつ兎リュックから余っていた油壺を取り出し背後へ投擲。
それを見ていたノアさんがすかさず松明を放ります。
一気に炎の海と化す後方。混乱する鼠達。……今の内に脱出です!!
ヘトヘトになって外へ出ると衛兵さん達が心配した様子で近付いて来ました。
なので第一階層でラットマンと遭遇した事を伝えておきます。
あ~疲れた……ノアさん、お風呂行きましょうお風呂! その後は御馳走です!!
ギルドへの報告なんて明日です。
今日の収支
銅貨:-2枚(大衆浴場入浴代×2)
銀貨:-1枚(宿泊費×2)(寝床◎、食事◎)
――――――――
残金:銀貨45枚、銅貨33枚
(依頼品等:屑マナ結晶×20、デロドロ液5瓶)
(_ _;)…パタリ ……本当に疲れました。
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