31日目:私の目指した冒険者

 神聖歴六一〇二年・皋竜こうりゅうの月第一四日・天気:晴


 今日も酒場で目が覚めました……給仕のお姉さんのゴミを見るような目線が心を抉ります。

 くっ、真面目に働かなくては!! ……あれ? これ昨日も言った気がします。

 

 お仕事何にしましょう……ゴブリンは嫌ですがまた茸採取ですかねぇ。

 報酬が良いですし、今日はあるだけ全部受注します。

 受付のお兄さんが心配そうですが大丈夫です。たかが茸の五〇本位すぐに見つかります。


 ――と、甘い考えだった午前中の私を呪いたい……。

 昼過ぎですが確保できたのは二四本……約半分。

 ……もう少し森の奥を探す必要がありそうです。

 でも嫌なんですよね、奥に行くとゴブリンとの遭遇率が上がって……。


 森の奥で再び採集開始です。

 少し暗くなってきたので早く終わらせたいですね。現在三八本、もう少しです。

 さぁ、もうひと頑張りと思った直後、森の中に悲鳴が響きました。

 ……多分人間、それも割と近くです。

 え、どうしましょう……様子を見に……行くべきですよねぇ、コレ……最悪です。


 声のした方へ進むと、何かを引き摺るような音が聞こえてきました。

 木陰に隠れて確認。そこにはゴブリンが三匹程。そして、その足元には怪我をした小さな女の子が一人。

 顔は見えませんが青いワンピースと小麦色の髪は泥だらけです……酷い。

 ……その子を見ながら何かを話すゴブリン達。

 女の子に関する最低な会話をしているのでしょう……目や口元がいやらしいです。


 助けを呼びに行っている時間はありませんね。私がどうにかしないと……。

 出来ますか……今の私に……戦いが怖くて剣も抜けず、敵に背を向けて逃げ出すような私に……。

 迷っていると布を裂く音。小さな悲鳴。

 私は咄嗟にその場へ飛び出していました。

 想定外の闖入者に目を丸めるゴブリン達。けどそれも一瞬の事、鉈や剣を手に取ると新しい獲物に舌舐めずりをします。


 震える歯や腕を意志の力でねじ伏せます。

 私がやらなきゃダメなんです。私しかいないんです。

 ……逃げるな、立ち向かえ、己の恐怖に呑まれるな!! それが私の目指した冒険者だから!!


 覚悟を決めて一歩前へ踏み出すと、今までが嘘のように一歩進む毎に体が軽くなっていきます。これなら!!

 そして、剣も抜けました。その勢いのままに近付いて来た一匹目の頸動脈を斬り、二匹目が振り下ろす鉈を躱す瞬間に逆袈裟斬り。

 間を置かず、恐怖に引き攣る最後の一匹の胸元へ短剣を根元まで沈ませ……討伐完了です。


 ……何でしょう、私が私でないような不思議な感覚です……でも考えるのは後です。まずは女の子を助け起こします。

 む……気を失っています。仕方ありませんね、ギルドまで連れて行きましょう。

 あぁ!? もう暗いのにまだ茸が集まってない!! ……本当、ゴブリンなんて大嫌いです!!


今日の収支

銅貨:+90枚(任務報酬×3)

   +16枚(茸売却費×8)

   +90枚(ゴブリン討伐報酬×3)

   -46枚(任務失敗違約金×2)

   -13枚(宿泊費)(寝床〇、食事〇)

――――――――

残金:銀貨2枚、銅貨48枚


(゚ー゚*?)オヨ? 女の子を保護しましたけど何処の子です、この子?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る