30日目:逆転の発想と原因

 神聖歴六一〇二年・皋竜こうりゅうの月第一三日・天気:晴


 ……頭が痛いです……飲みすぎました。

 はぁ……酒場で朝を迎えたのは人生で二度目です。うん、これはダメですね、人としてダメです。

 頑張って仕事しよう……。


 水を飲んで目をシャキッとさせてからクエスト選びへ。

 今日は何を受注しましょう……天気も引き続き良いですし……。

 うん、また四枝茸採集に決定! 群生地を見つけたので三つ程受注です。まだ採り残しがあるので楽々ですね。


 森へ向かいながら昨日の事を考えます。問題はゴブリンなのです。

 追加任務扱いなので別に狩らなくてもいいのですが、出来ればやりたい。報酬も美味しいですし。

 けどアレを目の前にすると何故か剣が抜けません……あっ!!

 閃きました!! 逆転の発想です。抜けないなら、最初から抜身で手に持っておけばいいのです!!

 うん、これで行きましょう!! 私って賢い!!


 そして茸を一八本ほど採集した頃にゴブリンを見つけました。

 少し離れているので、まだ此方には気付いていません。ふふふっ、チャンスです。

 装備は錆びた鎧にこん棒ですか……本当ゴブリンのくせに武装とか生意気です。

 正対しないように用心して背後に回り込み奇襲しようとした瞬間――


 ――あ、あれ? 足が動かないのです……。

 必死に力を込めますが、まるで地面に縫い付けられたかのように動きません。

 なんで……なんで!!


 動揺しているとゴブリンに発見されました。

 私を見つめると耳元まで裂けた口がニヤリと三日月形になります。

 駆け出してくるゴブリン。

 それでも動かない足。ダメです! 緊急事態です!! 

 焦る中、何故か脳裏に浮かんだのはダンジョンで魔物に襲われたあの瞬間でした。

 またあの時のような思いをする……それだけは、それだけは嫌です!!

 そう思うと僅かに足が後ろに動きます……。


 気が付くと私はゴブリン相手に背を向けて逃げ出していました……。


 その後どうにか四枝茸の採集を終え、意気消沈した状態で帰路につきます。

 今日の一件でハッキリしました……剣を抜けない、正確には戦闘が出来ない原因。

 それは多分ダンジョンでの事が関係しています。

 あの時の事で私は心の何処かで戦う事を恐れているんでしょう……。

 ……原因は分かりました……でもどうすれば……。


 ギルドへ報告をし報酬を貰った私は再び酒場を訪れていました。

 ……宿屋に一人いても眠れる気がしませんでしたし、冒険者の陽気な声を聞くと少しは元気になれました。

 一人黙々とお酒を煽ります。酔ってくると段々と悩みとかどうでもよくなってきますね……。

 給仕のお姉さんが心配そうに声を掛けてきます。……むぅ、大丈夫です!! いいからお酒のお代わりを持ってくるんです!!

 あ~美味しい……でも、何故でしょう知らない間に目元が涙で溢れていました……。


今日の収支

銅貨:+90枚(任務報酬×3)

   -65枚(酒場代)

――――――――

残金:銀貨1枚、銅貨11枚


"(/へ\*)"))ウゥ、ヒック うぅ……もう駄目かもしれません……あ、お姉さんお代わりを!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る